原作設定(補完)

□その50
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真剣な表情でジャンプを見つめているけれど、内容は全然頭に入ってこない。

その代わりに頭の中に詰まっているのは土方のこと。

『……ええぇぇぇ……花火を見るだけで土方と永遠に別れないで済むの?……まじでか……』

新八と神楽が言っていたように、銀時はがずぅぅぅぅぅっと土方のことが好きだった。

きっかけは些細なことが積もりに積もって、という感じではっきりしない。

三十路を前にこそばゆくも手に入れた"恋心"は、前途多難どころか絶望的にも思えた。

なにしろ相手はあの土方十四郎なのだから。

だが銀時には"やることなすこと土方とダブる"という奥の手があったため、定食屋でばったりとか、映画館でばったりとか、サウナでばったりとかを繰り返し、居酒屋でばったりまで持ち込んで地味に遠まわしに口説いてみた。

銀時の口八丁手八丁に乗っかってくれた土方に、銀時も乗っかることができた(そういう意味で)。

自分の気持ちも言ってないし、土方も気持ちも聞いていないが、ソレを許容される関係になっただけでも奇跡に近い。

のに、新八と神楽には"付き合ってない"という感じの言い訳をした銀時に対し、土方のほうは屯所で"付き合ってる"と公言していると沖田から聞かされた。

『ええぇぇぇ!? 土方はそのつもりだってこと!? その気になっちゃってくれてるってこと!?』

思いがけず両想いになってしまったことで銀時は毎日がとても楽しいのに、それを永久に続けることができる。

銀時は新八と神楽が台所でわちゃわちゃ騒いでいるのを伺ったあと、そーっと電話の受話器を手に取った。

そろそろ書類整理も片付けて時間に余裕ができるころなので、飲みに行けないかと誘おうと思っていたところだったのだ。

素面で花火大会の話をするのは、意識しまくっているので難しい。

ちょっと酒でも入れて酔った勢いでさらっと誘ってみおうと思った。




さらに同時刻、真選組屯所では"追い"書類された土方が、真剣な表情で机上を見つめているけれど、内容は全然頭に入ってこないでいた。

その代わりに頭の中に詰まっているのは銀時のこと。

沖田にああ言ったものの、やっぱりソレを考えずにはいられなかった。

万が一、銀時が花火大会に誘ってきたらどうしよう。

そんなことを考えていたら携帯電話が鳴ってビクッとしたあと、"万事屋"の表示にドキッとする。

このタイミングで銀時から電話がかかってくるなんてと激しく動揺しているが、躊躇っているヒマはない。

あまり待たせると仕事中かと思って銀時は諦めてしまうので、急いで電話に出た。

「な、なんだ」

「あ、土方? 今大丈夫か?」

「お、おう」

「そろそろさーちょっと暇になるころじゃねーかと思って。今晩、飲みに行かね?」

「……こ、今晩? 飲みに?」

「うん。あ、まだ忙しかった?」

「……い、いや……大丈夫だ」

「そ。だったら、いつもの店に、いつもの時間ぐらいでいい?」

「分かった」

「じゃあ、後でな」

用件だけ言ってさっさと電話を切ってしまった銀時に、土方は空気が抜けるみたいに脱力する。

いつもの調子でいつものことを言われてしまい、これは花火大会のことは知らないかもしれない。

ホッとすると同時に、寂しくもなる土方だった。



さらにさらに同時刻の万事屋。

「よしっ!!」

約束を取り付けたことで小さくガッツポーズを取る銀時を、こっそり部屋の外から覗いていた新八と神楽は、

「直に誘ったら良いアル。酒の力を借りようなんて情けない男ネ」

「まあまあ。銀さん、ちゃんと誘えるといいね」

嬉しいような情けないような気持ちで見守のだった。



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