原作設定(補完)
□その50
1ページ/26ページ
#491
作成:2019/09/09
書類整理もあらかた片付けて、ちょっとのんびりしていた副長のところへ慌しい局長が飛び込んできた。
「トシィィィィィ!!」
この様子ではようやくの休憩タイムも終わりだと、土方は小さい溜め息をついてから答える。
「……なんだ、近藤さん」
「花火大会があるんだ!!」
「……知ってる。真選組も警護に入っ……」
「とうとう俺とお妙さんのハッピーライフが始まるんだ!!!」
「…………は? なんで?」
「花火大会だよ、花火大会!」
興奮しているせいで分かるように話してはもらえそうにない。
なので、土方は近藤の後ろからノコノコと現れた沖田に聞くことにした。
「……おい、総悟。何があった」
「ネットで話題になってるんでさぁ」
「ネット?」
「今度の花火大会、ものすごい"恋愛成就"のパワースポットになるらしくて」
脱力しそうになるようなことを言われたが、土方はなんとかソレを堪えた。
まあ、近藤が大騒ぎするようなことはその程度のほうが気が楽だ。
「……恋愛成就? んだそりゃ」
「歴、風水、方角、星のめぐり、全てが最高の日らしいんで。片想いの人は両想いになれるし、両思いの人は永遠に別れることはない、とかなんとか」
「……それを真に受けたわけか」
「いや、それがまんざら嘘でもなさそーなんでさぁ。いろんな専門家がかなりの効果を保証してるって話ですぜぃ」
まあ"かなりの効果を保証"されなくても、近藤という男は藁にも縋る思いで試す男なのだけれど。
近藤は気合十分で叫ぶ。
「必ずお妙さんと2人で花火を見てやる!! そしてけ、けけけ、結婚してもらうんだ!!! ちょっと出かけてくる!!!」
「おい、どこ行くんだ。花火大会は3日後だぞ」
「もう一回、お妙さんを花火に誘ってくる!!」
"もう一回"ってことは一度誘って断られてるんじゃねーか。
というツッコミは、ものすごい速さで出かけてしまった近藤に聞えないのでやめた。
変わりに沖田に訊ねる。
「…………この噂はどこまで広まってるんだ?」
「TVではやってねーみてーですが……まあ、情報に敏いキャバ嬢なら承知してんでしょうね」
「じゃあまかり間違っても一緒に行くことはできねーな」
「でしょうね」
近藤の幸せを願っていないわけではないけれど、どうにもこうにも相手があの女では不安しかない。
ましてやパワースポットだのなんだの、得体の知れないものに任せる気にはなれなかった。
近藤さんの"漢"としての素晴らしさに目覚めてくれてあっちからホレてくれるぐらいじゃないと、真選組局長の妻なんて務まるはずがないのだ。
今回のことはこれで回避できそうだとホッとしながら、
「なら真選組の警護予定は変更なしだ。隊士どもに余計な話すんなよ、浮かれる馬鹿が出たら困る」
沖田にそう注意したら、別な流れ弾が飛んできた。
「というか、こっちの馬鹿はどうするんですかぃ?」
「? どっちの馬鹿だ」
「あんたでさぁ」
馬鹿呼ばわりされることには慣れてしまったので、普通に聞き返してしまったら、
「あ? なんで俺だ」
「旦那がコレを知ったら絶対に花火に誘ってくると思うんですがねぇ」
唐突に銀時の名前を出されつい動揺してしまう。
「そ、そんなこと………………あ、あるか?」
「ありありでさぁ。こんなおもしろいネタに旦那が飛びつかないはずねーや」
沖田に言われると、気が合っている分、説得力がある。
この花火大会は幕府も支援しているせいでかなり大きな行事で、真選組は毎年出動させられていた。
それを銀時は知っているはずなので、もとより誘われていない。
だからこの話を知ったからといって改めて誘ってくるだろうか。
「……いや、いくらアイツでもそんな浮かれた話しにノルはずが……」
「……へえ……土方さんにとって旦那ってどんなイメージなんですかぃ?」
「いい加減で適当でやる気のねー天パ」
「そんな"いい加減で適当でやる気のねー天パ"が、花火を見るだけで土方さんと永遠に別れないで済むって話にのらないと思うんで?」
ものすごく説得力のあることを言われてしまったが、土方にも意地があるので一応反論してみた。
「……で、でも、あいつはパワースポットとかには興味ねーしな」
「行くのが面倒くさいだけじゃねーんで? それに土方さん絡みならぜってー行きやすね」
「そんなことねー。俺はあいつが心底面倒くさがりのマダオだと信じてる!」
そんな信じられ方をされていると知ったら銀時が泣いてしまいそうだが、沖田には思う壺だったらしい。
.