原作設定(補完)
□その50
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#500
作成:2019/10/22
団子屋の店先。
2人がいつも"ささやかな逢瀬"を楽しむ場所で、2人はちっとも楽しくない顔をしていた。
銀時は不機嫌そうに、土方はすまなそうに、表情を歪めている。
会った瞬間にはあんなに嬉しそうだった銀時を、こんな表情にさせてしまった責任は自分にあるので、土方はもう一度謝罪した。
「……すまねぇ……」
「別にいいけどね、そんなに謝らなくてもぉ」
「……怒ってるじゃねーか」
「怒ってませんんん。誕生日に会えなくなったぐらいで怒りませんよ、多串くんが忙しいのは分かってますしぃ。それがたとえ、デートのドタキャン、早退を繰り返えしてきたお詫びに、多串くんのほうから"今年の誕生日は絶対当日に祝ってやる"って言い出したことであっても、俺さえ耐えればいいことだからね、気にしてませんよ」
気にしていない、という割には不機嫌の理由をずらーっと並べてくれたが、土方は文句を言わない。
さすがに今度こそは悪いと思っているのだ。
なのでちゃんと"お詫び"は考えてきた。
そっぽを向いたままの銀時に、意を決したように言った。
「……こ、今度会ったとき……な、なんでも言うことをきく」
そのセリフは土方の口から出ると、甘え上手な女子が「なんでも言うこときくからぁ」なんて軽く言うのとは重みが違う。
証拠に、効果はバツグンだ。
「なん、でも?」
銀時の顔からは"不機嫌"が消えて、すでに何か"期待に胸を膨らませた"ような表情になっている。
何を期待しているかなんて今はまだ考えたくないけれど、機嫌が直ってくれたならいい。
「……なんでも、だ」
「まじでか」
「まじだよ」
土方がちゃんと"覚悟"を決めているのを見て、銀時はにっこりと笑った。
「多串くんがそこまで言うなら仕方ないなー。銀さん、遅れてもちゃんと待ってますよ」
「……ありがとう。じゃあ、後で連絡するから」
「! 怖気づいて連絡しない、とか無しだぞ!」
「分かってる」
忙しい合間に来てくれたのか、土方は一応注文した団子の皿を銀時のほうに押して、軽く手を振り帰って行った。
その団子をむしゃむしゃと食べながら銀時は、さっきとは違う笑みを浮かべる。
誰が見ても、ろくでもないことか、いやらしいことを考えている笑みだ。
当然、考えている。
『"なんでも"だってぇぇぇぇ。きゃぁぁぁ、ええぇぇぇ、どうすんのぉぉぉ? あ、あの様子だと、本当になんでもしてくれそうじゃね? 普段嫌がってるアレとか、ソレとか、コレとか……あまつさえ……な、ナニとかしてくちゃうぉぉぉぉ!!? ……ハッ!?……』
考えに合わせてクネクネ体をよじって悶絶していた銀時だったが、ふと周りの人間の視線を感じて咳払いをしながらしゅっと座り直す。
お茶を飲んだら少し落ち着いてきた。
『……"なんでも"なんて言ったらとんでもないことさせられちゃうかもしんないのに……させちゃうけど……よく言ったなぁ……よっぽど反省してんだな……拗ねてはみたけど、別に本気で怒ってるわけでもねーのに……』
団子も茶も手をつけずに帰って行った土方。
『多串くんが真選組が一番大事なのも、仕事が大好きなのも、知ってるっつーの……俺を一番に考える多串くんなんて、多串くんらしくねーし……なーんて。俺って理解のある彼氏ぃぃぃ』
銀時はふぅと溜め息をついて最後の団子を口に運んだ。
約束の日、土方は正直浮かない気分だった。
銀時の誕生日を当日に祝ってやれなくて悪いという気持ちも、銀時が喜んでくれることならなんでもしてやりたいという気持ちも本当だ。
けれど、銀時のことだから土方が苦手でやらずにいたことを、ここぞとばかりに注文してくるはずだ。
『"マジでなんでも"って言っちまったぁぁぁぁ。ぎゃぁぁぁ、ええぇぇぇ、どうすんのぉぉぉ? あ、あの様子だと、本当にとんでもないことしろって言いそうじゃねーか? 普段嫌がってるアレとか、ソレとか、コレとか……あまつさえ……な、ナニとかしろって言うだろうがぁぁぁ!!? ……ハッ!?……』
万事屋へ昇る階段を前に悶絶していた土方だったが、ふと周りの人間の視線を感じて咳払いをしながら階段を登る。
もう言ってしまったし、銀時も楽しみにしているのだろうから覚悟を決めなくてはならない。
大きく息を吐いて玄関の呼び鈴を鳴らした。
久しぶりにゆっくりと会う土方を、銀時は熱烈歓迎してくれる。
銀時の誕生日を祝うはずなのに、テーブルには土方の好きなオカズや肴ばかりが並び、始終機嫌も良い。
が、土方の方は内心でドキドキしっぱなし。
「ケーキ、どうもな。食ってみたかった店のヤツだろ」
「た、たいしたことじゃねー」
嬉しそうな銀時と話ながらも、いつ「あのさぁ」と言い出すかとずぅぅぅぅぅっと身構えていたせいで、せっかくの料理も酒も味が分からなかった。
が、銀時から何か"命令"が下ることもなく、普通に飲み食いは進み、
「そんじゃ、多串くん、先に風呂どーぞ」
そう言われたときには緊張感MAX。
何しろ、このあとは銀時のして欲しそうな"なんでも"の宝庫なのだから。
風呂に入ってたら一緒に入りたがるんじゃないか、土方からアレやコレやソレをして欲しがるんじゃないか。
ずぅぅぅぅっとそんなことを考えいたせいで緊張でガチガチの土方を、銀時は小さく笑いながら優しく抱いてくれた。
いつもどおりに。
そして人通り終えて満足気に布団に入った銀時の隣で、土方もホッとしながら目を閉じた。
……のを、すぐ開く。
「って、違うだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ!? な、なに!?」
土方は布団から飛び起きて、驚く銀時の羽織った着物の胸倉を掴んだ。
「なんで、何も言わねーんだ!」
「……なにを?」
「とぼけんな! な、なんでもしてやるって言ったのに、なんで何も言ってこねーんだよ!」
言われるのは怖かったくせに、言われないとなるとそれはそれでショックなのだった。
怒る土方に、銀時は嬉しそうに笑う。
言われず済んでホッとしてくれるかと思ったのに、まさか怒られるとは。
銀時は土方の体を抱き寄せて、再び布団の上に寝転がった。
「なんで、って……俺がして欲しいって思うことはぜーんぶやって貰ってるからなぁ……」
「……全部ではねーだろ……約束も守れてねーし……」
「だから、そういうとこ含めて全部。仕事頑張って欲しいなぁ、とか、俺が拗ねても嫌いにならないでないかなぁ、とか、美味しそうに飯食ってくれないかなぁ、とか、思いっきり気持ち良くなってくれないかなぁ、とかねー」
「……そ、んなの……いつもどおりじゃねーか……」
「うん。いつも通り、多串くんが俺と一緒に居てくれて嬉しいよ」
本当に満足そうに土方を抱き締める銀時に、土方は悔しいので、
「……そうかよ……次はねーからな、期待すんなよ……」
そう可愛くないことを言いながら、ぎゅっと抱き返してやった。
銀時にとってはそんなところも全部可愛いので、やっぱり嬉しいだけでやっぱり満足なのだった。
おわり
銀誕2019、今年もたくさん書けて幸せでした。
原作設定でイチャイチャさせるのが、やっぱり嬉しい。
だったらもっと書け、ってカンジですが(笑)
はぴば、銀さん!!