原作設定(補完)
□その50
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#495
作成:2019/09/26
「おい、万事屋……万事屋! 起きろコラァ!!」
怒鳴り声で目を覚ました銀時が見たモノは、怒った顔の土方と振り上げた握り拳。
呼んで起きなかった殴ろうと準備していたものに違いない。
「ちょっ……暴力はんたーい……」
危機一髪殴られずに済んだけれど、文句を言いながら体を起こした銀時は、さらに視野を広げて首を傾げた。
そこは室内だったけれどまったく見覚えのない、使われていない何かの工場の事務所のように見える。
「……なにコレ、どこコレ。困るなぁ、土方くーん。勝手にこんなところに連れ込まれたら」
「知るかぁぁぁ!! 俺じゃねーよ!!」
本気で怒っているので銀時はそれ以上ふざけるのを止めて、どっこらしょっと立ち上がる。
万事屋で居眠りしていたはずで、自分の意思で移動してきたのではないことは間違いない。
だったら誰かに連れて来られた、ということになるものの、手足は自由だし暴力を振るわれた形跡もなかった。
土方がドアまで行って開けようとするが当然開かず、それ以外に出入りできそうな窓もない。
チッと舌打ちする土方に、銀時は頭をぼりぼり掻きながらもう一つ訊ねた。
「つーか、なんで土方くんが居るんですかね」
ここに居るのが誰かのせいだとしても、新八や神楽なら納得できる。
どうして別々の場所にいたであろう2人を、別々に拉致ってここに放り込んだのか。
銀時がそう思っているように、土方もそう考えて眉間のシワを深くする。
「知るか、こっちが聞きてーよ」
「……ですよねー」
言いながら銀時も辺りを確認してみた。
木刀はないし、土方も帯刀していない。
部屋の中には事務机とかロッカー、無造作に積まれた段ボールが多数。
なにか手がかりがないかと探り出した銀時に気付き、土方もドアの近くの段ボールのを覗き始めた。
その中の一つから甘ったるい匂いがしていて、
「……こ、これは!!?」
箱を開けた土方が驚いて声を上げ取り出したブツに、銀時も驚かされる。
「…………イチゴの生クリームホールケーキ?」
有り得ない場所に有り得ないモノがあれば、怪しいことこの上ない。
銀時には願ったり叶ったり大歓迎の代物だが、
「まじでか! ちょうどハラ減ってたんだよ。いっただきまー……」
「ちょっと待てコラァァァ! 食うか!? こんな怪しげな場所で怪しげなケーキを食おうとするか!?」
常識人の土方に阻止された。
「えぇぇぇ。ハラ減ってるし、ホラ、生クリームもツヤツヤで新しいモノっぽいし。俺らを拉致ったヤツが食料として置いていってくれたんじゃね?」
「どこの世界に拉致って監禁している人間にケーキを容易する犯罪者がいるんだよ」
「……ケーキ屋さん? 店の売れ残りとか?」
「……無理があんだろ……つーか、てめーの甘味好きを知ってるからじゃねーのか」
「はあ?」
疑いの眼差しを向ける土方の手には、同じ箱に入っていたいちご牛乳が握られていた。
ケーキといちご牛乳。
銀時の好物であるが、たまたまその組み合わせで用意したとはとても思えない。
となると犯人像は"銀時にまったく無関係の人物"とか"銀時は巻き込まれただけで土方が狙いの人物"とかであるはずがなく、しかもわざわざケーキといちご牛乳を用意したとなると"悪意"ですら考えにくい。
"善意"で銀時と土方を拉致って監禁する。
そんな突拍子もないシチュエーションだったけれど、ソレに銀時は心当たりがあった。
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「銀ちゃん、来月誕生日アルな。何か欲しいものあるか?」
「金」
「……銀さん、そういう直接的なものじゃなく……」
「じゃあ、"銀魂リターンズ"として少年ジャンプに銀さんが戻ってきたぁぁぁ、っていうニュース」
「……銀さん、たぶん無理です……」
「もっとささやかで可愛い願い事するヨロシ」
「……ささやかで可愛い……」
『土方くんと2人で誕生日ケーキ食いたい』
「銀ちゃん?」
「……なーんてな。余計な気ぃ回すなよ、いつもどおりでいいから」
「…………分かったアル!」
「あ?」
「銀ちゃんのささやかで可愛い夢、きっと私たちが叶えてみせるネ!」
「え? ちょっ……」
「銀さん! 楽しみにしててくださいね!」
「……えぇぇぇ……」
『…………ま、いいか。俺が土方くんに片想いしてるなんてコイツら知らねーし……たぶんケーキとかケーキとかケーキとか用意するぐらいだろ』
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