原作設定(補完)

□その50
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#493

作成:2019/09/19




薄暗く、段ボールが積まれていて狭い、埃っぽい部屋の隅で、土方は震える体を自分の腕で必死に押さえ込んだ。

「いいザマだな、真選組鬼の副長殿」

下品な笑みを浮かべて自分を見下ろす男の顔は見覚えがある。

今回の検挙対象である攘夷党の、下っ端の下っ端あたりの冴えないチンピラだ。

こんな男に小馬鹿にされても自由にならない体に、土方は精一杯男を睨みつける。

が、それはむしろ逆効果で男はニヤニヤと笑い、

「そのおキレイなツラで睨まれると興奮するなぁ。もっと近くで拝ませてくれねーか」

土方に向かって手を伸ばしてきた。

手元に刀はあるけれど、掴んで振り下ろせる力が出せるか分からない。

だがこんなクソ野郎に触れられるぐらいなら、死ぬ気でやってやる、と歯を食いしばる土方の耳に呑気な声が飛び込んでくる。

「はぁい、そこまでぇ」

声の次には、男の頭部をガッと掴む指が見えた。

驚く男が声を上げる前に体は宙に浮き、そのまま壁に向かって吹き飛び、跳ね返った体は段ボールの中に沈んだ。

起き上がってこないところを見ると気を失ったらしい。

馬鹿力で男を投げ飛ばしたのは、怒りのあまりに笑顔を浮かべている銀時だった。

動かない男を見届けてから、土方の前にしゃがみこむ。

「大丈夫か? 何、あんな三下に手篭めにされそうになってんですかコノヤロー」

わざとふざけた言い方をして土方の気を楽にしてやろうとしたのだが、それどころじゃないのはすぐに分かった。

気の抜ける顔を見てホッとしても、現状はなにも変わらない。

土方は悔しそうな顔で銀時を見上げた。

「……万事屋……っ……」

潤んだ瞳と紅潮した顔。

苦しげな声で名前を呼ばれ、銀時もふざけるのを止めて手を伸ばしたが、

「どした?」

「……さ、触るなっ……」

拒絶するように強張らせた土方の体は震えている。

そのとき、銀時の鼻腔に昔どこかで嗅いだことがあるような匂いが届いた。

「……なんかされたのか?」

「……何か……飲まされて……っ……」

油断したつもりはなかったのだが不意をつかれ、床に転がされたと同時に口に何かの液体を突っ込まれた。

ほとんど吐き出したはずなのに、すぐ体内に浸透して効果を表した。

「苦しいのか?」

「………っ………」

体が熱い。

銀時の心配する優しげな声が、余計に土方を苦しめた。

奥のほうからジワジワと湧き出てくるような"欲"を土方は必死に押さえ込む。

"どうして欲しいのか"、分かっていたけれどそれを口にするのは躊躇われた。

だが苦しげな表情で口を噤む土方に、銀時は眉間にシワを寄せる。
言われずとも銀時には察しがついていた。

土方の症状と、さっき嗅いだ匂い。

攘夷戦争のころにどこからか持ち込まれ味方の間で流行ってしまった媚薬の類いだ。

「……シてぇの?」

「……っ……」

銀時に見破られたことで、押さえ込んでいた土方の"我慢"が崩れた。

何度も肌を重ねてきたくせに、土方から行為を誘ったこともねだったこともない。

だけど今は"今すぐにでも"と縋るように手を伸ばしたが、

「トシィィィ!! 万事屋ァァァ!!」

近藤の声が聞えて我に返った。

再びぐっと我慢する土方に、銀時はふぅと溜め息をついて部屋の外に向かい声をかける。

「……ゴリ! こっちだ!」

「万事屋っ!? トシも一緒か!?」

「一緒、一緒」

言いながら銀時は土方の腰と腕を掴んだ。

たったそれだけのことに軽い電気が流れたみたいな反応をするので、銀時は小声で"気合"を入れさせた。

「ほら、少し踏ん張って平気なツラしてろ。ゴリが心配するだろうが」

それが土方には一番効果的。

「トシっ! 無事かっ!?」

心配顔の近藤が部屋に飛び込んできたときには、いつもの"なんでもない"という顔になっていた。

「ああ、無事だ」

「そうか! 良かった、心配したぞぉ」

精一杯の見栄を張る土方を見て、安心したように近藤が笑う。

ただその"見栄"も長くはもたないと分かっている銀時は、素っ気無い言い方で2人の会話を遮った。

「ゴリさん、こいつ具合悪いみてーだから、このまま外に連れてくぞ」



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