原作設定(補完)

□その49
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「私が間違えるわけねーアル。銀ちゃん、ずっと前からお前のことが好きだったネ」

"ええええぇぇ!?"とざわめく人々に、新八が割ってはいる。

「神楽ちゃん!! それは言わないって決めたでしょぉぉぉ!! 土方さんの反応を見てからじゃないと、銀さんがそのあと困るでしょうが!」

「銀ちゃんの"そのあと"なんか知らないアル。それに私はそこまで空気の読めなくないネ!」

「どう読んだって言うんだよ!」

「ソイツも銀ちゃんのことが好きアル」

「は? そんな反応じゃなかっただろ。すみません、土方さ…………」

神楽の言葉を聞いて新八も周りの人々も"そんなはずないじゃん(笑)"という気持ちで土方を見て、衝撃的なモノを見てしまったように固まった。

土方が反論してこないなぁと思ったら、顔を真っ赤ににしてぐっと口を結んでいた。

銀時に"好きな人がいる"と聞いて密かにショックを受けていたけれど思いがけないオチを嬉し恥ずかしくなってしまった、という顔だ。

おまけに、

「……そ、そそそ、そんなこと……あ、あああ、あるわけ……」

なんてバレバレの弁解をしようとしているところも、見ていた観衆をほんわかさせてしまう効果があった。

とりあえず"事の次第と結末"を見た人々は蜘蛛の子を散らすように立ち去っていく。

そして、神楽と新八も、

「じゃあ、土方さん、銀さんをよろしくお願いします」

「しあわせになれヨ」

なんて言って立ち去ろうとするので、我に返った土方が慌てて引きとめた。

「!? おい、ちょっと待て! コイツ、なんとかしろ!」

「なんとかって何をアルか」

「催眠術を解いてやれよ!」

「解き方、知らないアル」

「…………は?」

「素人がたまたまやってかかっただけネ。解き方なんて知るわけねーだろ」

「お前、さっき、たまたまじゃねーって…………おい、待て、コラァ!!」

「神楽ちゃん、"好きなだけ素直になってこい"って言いながらかけてたんで、気が済んだら戻るかもしれませんよ」

「いつ気が済むんだ」

「知りません。じゃ!」

銀時がぶらさがっているせいで追いかけて来ないのをいいことに、二人もさっさと土方の前から立ち去ってしまった。

つい総悟を相手にしているような錯覚を感じて怒鳴ってしまいそうになったが、総悟と同じでどうせ戻ってこないだろう。

それに今日はこれから屯所で会議があって、副長として遅刻も欠席もできない。

銀時を万事屋に届けてる時間も、ましてや元に戻るよう頑張る時間もなく、土方は深い溜め息をついて、

『殴って気絶させてここに放り出して行くしかないか?』

なんて"好きな人"に対してあんまりなことを考えたりもしたが、抱き付いたままの銀時の言葉でそれもできなくなる。

「多串くん、大好きぃ」

プロポーズされて抱きつかれていても名前を呼ばれていなかったので新八たちの話も半信半疑だったのだが、そう言われてようやく"本当のことかもしれない"と嬉しくなってきた。

となれば殴るのも放り出していくのもできない、ので、仕方ないから屯所まで連れていくことにした。

が、抱き付いたままの銀時をどうやって連れていけばいいのか。

「……せめて普通に歩いて着いてきてくれねーかな……」

と呟いた土方に、

「分かった」

銀時はそう言ってパッと腕を離してくれた。

もしかして正気に戻ったのかと話かけてみたが、それに対しての反応はない。

土方はあることに気付いて、命令形で話してみた。

「…………俺の後を付いて来い」

「分かった」

そして歩き出した土方の後を、銀時がひょこひょこと着いてくる。

『なんだ……誰の命令でも聞くんじゃねーか……』

じゃあそのまま万事屋に帰せばいいんじゃないかと思ったのだが、その命令には反応しなかった。

"好きなだけ素直になる"という銀時なりの制約があるとすれば、土方の側を離れたくない、ということになる。

なんだか"人には懐かない野良犬が尻尾を振って後を着いてくる"ような気分になってきた。



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