原作設定(補完)
□その49
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#490
作成:2019/09/04
雨が降っていて夏だというのにちょっと肌寒いような気がするある日。
玄関の呼び鈴が鳴ったが、
「銀さーん。ちょっと手が離せないのでお願いします!」
という声が風呂場のほうから聞えてきて、働き者の部下と遊びに行ってる大食らいの変わりに、ソファでダラダラしていた銀時は「あいよー」と返事をして立ち上がる。
いつもなら"家賃の取立て"の可能性もあるから迂闊に応対に出たくないのだが、先月はちょっとリッチな依頼が多かったので、奇跡的に家賃の滞納がなかった。
ので、対依頼者用の営業スマイルで扉を開けたのに、
「はいはい、万事屋銀ちゃんでー………………」
「……なんだそのツラ。気持ち悪ぃな、銀時」
キセル片手にイケボでバカにしたようにそう吐き捨てた男に、銀時の営業スマイルはあっという間に消えた。
「て、てて、てめー、高杉っ」
有り得ない人物が目の前に立っていることに動揺するが、背景からしてここはどう考えてもかぶき町だ。
慌ててきょろきょろと辺りを見回し、
「お尋ね者がこんなところで何してやがるっ! てめーまでうちに出入りしてるのがバレたら、今度こそ本気で目ぇつけられちまうだろうが!!」
桂のことでたびたび係わりを怪しまれているというのに、という気持ちで訴えてみた。
が、高杉はケロッとした顔で煙草の煙を吐く。
「こんなところに立たせておけば見つかる可能性は上がるだろうな」
銀時はぐっと言葉を詰まらせた。
追い返そうにも用件を聞き出そうにも、ここで騒げば確かに誰かに目撃されかねない。
幸い雨のおかげで歩いている人間も少ないし、二階の万事屋を見上げている者もいなかったので、苦渋の選択として高杉を玄関の中に押し込むと急いで扉を閉めた。
これ以上、高杉の言うがままになってしまうのが癪だが、"理由"を聞かずに帰すのも気持ち悪い。
「……何のつもりだ、とっとと用件を言ってさっさと帰……」
「銀さん、お客さんですか?」
だが風呂掃除を中断して身支度を整えて出てきた新八にそう問われ、
「違う。コイツは昔のダ……」
無意識に出そうになった言葉に、銀時は心底嫌そうな顔をする。
が、空気の読めない新八は、見覚えのない来訪者だったけれど銀時と同じ年ぐらいの見た目と、どこか似通っている"空気"にあっさりと禁句を口にした。
「あ、お友達ですか?」
「違いますぅぅぅぅ!! お友達なんかじゃありませんんんん!!!」
「え? あ、そうなんですか……」
「つーか、コイツはマジでヤバイお尋ね者だから! 全然攘夷活動してないヅラとは違う本当にヤバイヤツだから!! 町でバッタリ会っても"知り合い"だってバレたらヤバイことになるヤツだから!!!」
全力で力いっぱい否定する銀時だったが、"良く知ってる"相手だというのは伝わった。
「そうですか。じゃあ、立ち話もなんなので中へどうぞ。お茶入れます」
「えっ!? 中に入れんの!?」
「邪魔する」
「ええっ!? お邪魔しちゃうの!?」
家主兼雇い主におかまいなしに話を進める二人に、銀時は憮然とした表情で後を追ってくる。
"狭いながらもなんとやら"な銀時の城に、高杉は嫌味ったしい悪態をついてくるかと思ったのだが、特に何も言わずソファに座った。
そのことも、高杉が部屋にいることも、銀時にはモヤモヤして気持ち悪い。
銀時は高杉の向かいのソファにドカッと腰かけ、早急に話を進めてみた。
「で? とっとと用件言ってくんない?」
「……銀時……」
「……な、なんだよ……」
「俺はな、"言ったことは必ずやる"男なんだよ」
「…………はあ? 何のことだよ。あ、あれですか? "ぶっ壊してやる"とか中二病的なことですか」
唐突に訊ねてきて脈絡のないことを言いだされ、銀時は半笑いで小ばかにしてみたのだが、高杉は表情も変えず懐から封筒を取り出し、銀時の目の前に投げてよこした。
ちょっとした重みがあるのかソレは銀時の前に着地したが、
「…………なんだよ、これ」
「約束のブツだ」
「……約束ぅ?」
心当たりがないので恐る恐る手に取ってそーっと中を覗く。
そこにはびっちりと紙が詰まっていて、それからは金の匂いがした。
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