原作設定(補完)

□その49
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#489

作成:2019/08/24




副長室で書類相手に苦戦していた土方は、

「副長、ちょっといいですか?」

「……おう」

襖の向こうからの山崎の問いかけに、不機嫌そうに返事をする。

くだらない話だったら切腹を命じるところだったのだが、

「あの、万事屋の旦那の……」

と言われターゲットが"銀時"に変わった。

山崎の困った様子からして、また性懲りもなく銀時が屯所に押しかけてきたのだろうと眉間にシワを寄せる。

が、相手は銀時ではなかった。

「……とこのチャイナ娘が来てるんですが……」

「……あ?」

予想外の相手に土方が眉間のシワを消失させてきょとんとしていると、山崎の後ろから神楽が浮かない表情で出てきた。

その様子はいつもの元気な神楽とは違うので、長い付き合いの山崎も見たことがないような顔で土方が声をかける。

「どうした? 何かあったのか?」

「…………お願いがあるアル」

神楽のほうも見たことがないような顔をするので、山崎ですら心配になったのに土方ときたら、

「金か? 飯か?」

なんて素っ気もないことを言ったりして、山崎を呆れさせ、神楽を怒らせた。

「落ち込んでる女にそんなことしか言えないアルか!」

「そうですよ、副長! 女心が分かってなさすぎます!」

「う、うう、うるせぇ! つーか、山崎、てめーいつまで居るんだ! さっさと仕事に戻れ!」

山崎にまでズバリなことを指摘され、土方は逆ギレぎみにそう怒鳴って山崎を部屋から追い出した。

それから深く息をついて、改める。

「……で? どうした?」

「…………今度の日曜日……」

「日曜?」

「……仕事休めないアルか?」

「…………あ?」

上目遣いにそんなおねだりをされて土方も一瞬ドキリとしたが、神楽がこんなことを言い出した理由は明快だ。

「……アイツに頼まれたのか?」

「頼まれてないネ。私の意志アル」

「……日曜日、なんかあるのか?」

「花火大会があるネ!」

「……あるな」

「それに一緒に行って欲しいアル」

「なんで俺まで。アイツらと行けばいいだろ」

「銀ちゃんに言ったら、"暑いし、混んでるし、暑いし、面倒くさいし、暑いし、土方くんもいないのに"って言われたアル」

ほらな、と土方は溜め息をつく。

「分かった」

「! じゃあ、一緒に……」

「俺からアイツに"見に連れてってやれ"って言ってやる」

土方としては至極普通の提案だったのだが、神楽はぱあっと輝かせた顔を正反対ってぐらいにガッカリとさせた。

なんだ?、と土方は首を傾げる。

そういう"女子供の機微"が分からないから、土方はモテそうでモテないのだ。

「ど、どうした?」

「……それじゃあ銀ちゃん"渋々"ネ……銀ちゃんも楽しいのが良いアル……」

土方と一緒ならそれはそれは楽しそうな銀時が見れるだろう。

あんなダメな大人の見本みたいな理由で花火大会へ行くのを断られているのに、まだこんなことを言う神楽に土方もちょっと切なくなった。

ちゃんと楽しくするように銀時に言い含めることも考えたが、内心の"渋々"は神楽に見破られてしまう。

土方が一緒に行くのが一番良いに決まってるが、その日は当然、真選組が警備に当たっているのでそれは無理なのだ。

『仕方ない……アイツが本気で喜ぶぐらいの"後のお楽しみ"を何か提示してやるしか……』

相手が相手だけにその"何か"はエロイことしか思い浮かばくて、土方が苦渋の選択をしようとしていたとき、声掛けもなく襖が開いた。

ソレを許されている唯一の人間は、

「トシ、ちょっといいか? ……あれ? チャイナ娘? なんでここに……」

神楽を見て驚いているが、事情を説明したら"仕事に行く"のを反対されそうなので、土方は話を反らそうとした。

が、実は全然反れていなかった。

「こ、近藤さん、それより何か用事じゃねーのか?」

「あ? ああ、そうそう。今度の花火大火の警護のことなんだど、ちょっと提案があるだがな」

「提案?」

「毎年俺たちが"怪しいヤツが居ないか"って目を光らせているから、見に来た市民の皆様をビビらせてしまってんじゃねーかと思ってな」

「……それが俺らの仕事だ」

「そうなんだけどさ、だから今年は、隊士の半分を私服で見張りに立たせたらいいんじゃねーかな」

「私服? …………まあ、そういう手もアリはアリだろうが……」

「だろ? だろ? じゃあ、そっち組は、トシ、お前に任せるから」

「……は?」

「"私服で市民に紛れ込んで見張り"、頼んだぞ」

にいっと笑って言いたいことだけ言って部屋を出て行く近藤に、土方は気恥ずかしさで眉間にシワを寄せる。

今の提案は、神楽がここに居るのを山崎あたりに聞いて、理由を知った上で考えたものに違いない。

仕事は仕事だけれど、神楽の望むように銀時たちと花火を見てやれ、と。

あんな風に言い出したら"そんな気遣いは必要ない"と言っても聞いてくれないし、まあ、良い案と言えば良い案なのだ。

なので、ぽかんとしている神楽に言ってやる。

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