原作設定(補完)
□その49
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#487
作成:2019/08/18
「お疲れ様、ちょっと休憩して冷たいものどうぞ」
そう声をかけられて、万事屋一行は汗だくで天井裏から出てきた。
今日は商店会の甘味処からの依頼で、壊れてしまった天井に取り付けるタイプの冷房機の修理に来たのだ。
壊れているので当然室内も天井裏もサウナのように暑い。
ガツガツと出されたかき氷を食べているのは、喉が渇いているのと、すぐに溶けてしまうためだ。
「本当にすみませんねー。電気屋さんに頼んだら忙しくて3日はかかるって言われたもんだから」
「ひえひえ、はいひょうふへふ」
「こんなに暑いと冷房のない店にはお客さんも来てくれなくて……おかわりいかが?」
同時に差し出された3つの器に、店の女将はくすくすと笑いながらおかわりを用意するため奥に引っ込んでいく。
「はぁぁ……生き返ったぁぁ」
「銀さん……直りそうですか?」
「あ? まあ、大丈夫だろ。古い機械のほうが直しやすいしな」
「早く直すネ。じゃないと汗かきすぎて痩せてしまうアル」
「メリハリの無い身体がそれ以上貧相になったら可哀想だから頑張るよ」
「メルカリ? 変装?」
知らない単語が出てきて首を傾げる神楽が事実に気付く前に、女将がかき氷のおかわりを持ってきてくれた。
と、同時に店の一角で女子の高い声が上がる。
「えぇぇぇぇ、マジで!? うそぉぉぉ!!」
それはこの店の看板娘で、他に客もいないので友達とサボっているところだ。
他に客はいないけれど女将が一応注意するが、
「ちょっと、声が大きいよ。なに騒いでんだい」
「だってお母さん! 真選組の副長さんに恋人がいるって言うんだもん!!」
「え? そうなのかい?」
「ラブホ街から出てきたんですよ。あれは間違いなく恋人ですねー」
「ショックぅぅぅ! いつか絶対彼女にしてもらおうと思ってたのにぃぃぃ!!」
逆に興奮して更に声が大きくなってしまった。
「ごめんなさいね、騒がしくて」
「……イ、イエ……大丈夫デス……」
謝る女将に銀時は汗を増やして上ずった声で返事をする。
本来なら、腐れ縁とはいえ土方にそんな浮ついた話があれば「へえ〜、アイツにね〜」なんて思うところだが、そうできない事情が三人にはあった。
『バ、バレた!? バレたの!? 俺と土方くんが付き合ってることぉぉぉ!?』
内心でアセる銀時を見ながら新八と神楽は溜め息。
「喧嘩ばっかりしてれば付き合ってるなんて誰も思わないよねー」と言って、人目があるとこで会うときは喧嘩してるフリをしてたくせに、人目につかなそうなところで見つかってては世話が無い。
が、それは杞憂だったようだ。
「それで? 相手はどんな人だったんだい? うちの子と違って美人だったろ?」
「それが、ものすごく普通の子でした。顔も割りと地味っぽくて。背はちょっと高めでしたけど」
「「「えええええぇぇぇぇ!!?」」」
杞憂だったけれど、別な意味での衝撃内容に3人は思わず声を揃えて叫んでしまった。
急に大声を上げた三人に、女将たちも驚く。
「ど、どうしたんだい、万事屋さん」
「アイツ、浮気したアルか!?」
「浮気?」
「な、なんでもありません!! ほ、ほら2人とも、早く仕事終わらせましょう!!」
浮かれた中年手前の男2人のノロケ話に飽きていてゴシップに目を輝かせている神楽と、ショックすぎて呆然としている銀時の襟首を掴むと、新八は逃げるように天井裏に飛び込む。
再びの熱帯空間に、このまま銀時にぼへっとされていては困ると新八が説得。
「ぎ、銀さん、ともかくここの仕事を早く終わらせて確認しましょう。見間違いかもしれないじゃないですか。というか、見間違いですよ、きっと」
「きっと銀ちゃんに愛想がつきて普通の女に走ったアル」
「神楽ちゃん! 聞き込みすればすぐ誤解だって分かりますよ! だから早く仕事終わらせましょう?」
新八の必死の説得に何も言わなかったが銀時は反応し、黙々と修理に取り掛かった。
おかげで予定より早く終わり、報酬を受け取って3人は早速かぶき町で情報収集に走る。
が、出て来る話は芳しくないものばかり。
落ち込む銀時に、
「……銀さん、もうこうなったら土方さんに直接聞くしかないですよ」
「そうアル。フラれ男が"信じる"とか言ってるのウザイからな」
「じゃ、じゃあ、僕たち先に帰ってますから……」
「えええぇ、フラれるとこ見たいアル」
「……ホント、容赦ないよね神楽ちゃんって……酢昆布買ってあげるから帰ろう」
「まじでか! 銀ちゃん、帰ってきたら詳しく聞かせてもらうからな!」
神楽の"言葉"という矢にグサグサ刺されている銀時が哀れに思い、新八は餌で釣って、
「あ、報酬は預かります。でも……これで甘い物食べていいですよ」
と"しっかり者"を発揮して報酬を取り上げると、そのまま帰って行った。
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