原作設定(補完)

□その49
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#486

作成:2019/08/14




見回りの途中、沖田に逃げられた土方は不機嫌そうに一人で歩いていた。

どうやったらまともに仕事をしてくれるのか。

いっそのこと毎回近藤と組ませてやろうかとも考えたが、それはそれで近藤のほうが沖田の口車に乗って遊んでしまいそうだ。

そんな思案を巡らせていたせいで、土方は目の前に飛び出してきた人影に気付かなかった。

"見回り"中としては大失態だが、相手を確認してホッとしたりムカッとしたり。

目前にいるのは銀髪天パーの男。

「万事屋、てめー……」

「ひ、土方……」

名前を呼ばれて初めて銀時が普通の状態でないことに気付いた。

いつもやる気のない呑気な顔は苦しげに歪み、自分を抑えるように掴んだ腕は小さく震えている。

「ど、どうしたんだ?」

さすがに心配して手を伸ばした土方に、

「……ご、ごめんな……もう……限界……」

そう言って銀時はその腕を掴んで引き寄せると、ぎゅぅぅぅぅぅぅぅっと抱き締めた。

「!!!?」

こうされることを許容する程度には"仲の良い"2人だけれど、それは日頃2人きりのときに限られる。

見回り途中の通りで人目も多大にある中の行為に、土方は驚きのあまり硬直。

そんな土方を余所に、土方をそんな風にした銀時は、大きな安堵の息をつく。

「はぁぁぁぁぁ……やっと落ち着いてきたぁ」

その声で我に返った土方は、自分たちにたくさんの視線が集中しているのに気付いて、慌てて両腕で力いっぱい銀時の身体を押しやる。

「て、ててて、てめぇ! 離せコラァァァ!!!」

「ちょ、ちょっと待った、もうちょっと待ってっ。お願い、300円あげるからぁぁぁ」

「いるか、300円ぽっち! いいから離せ!!!」

「あ、300円をバカにする者はいつか300円に泣きますよ!」

「ねぇよ、そんないつかは!!」

「たとえば"つり銭はありません"のランプがついた煙草の自動販売機で小銭が100円しかなかったときとか……」

「……400円足りねーじゃねーか」

「え!? お前500円もする煙草吸ってんの!? きゃー、いやー、貧乏人の敵ぃぃ!」

「んだとコ……」

言い返そうとして土方は、堪能するように自分を抱き締めている銀時の腕に、自分がノセられていることに気付いた。

口喧嘩で銀時に勝てるはずもなく、舌打ちして土方は自分の刀の鯉口を切る。

今度は銀時がそれに気付いて、刀を抜かれちゃたまらんと両腕をぱっと離して慌てて言い訳。

「待ったぁぁぁ!! これには理由があります!! 聞いてくださいぃぃぃ!!」

「……くだらねー理由なら……」

「くだらなくないから! 銀さんの命に関わることだから!!」

そう言った銀時はさっきの軽口と違っていたし、内容が内容なので土方も黙って刀を戻した。

それから興味津々の視線から逃げるように建物の影に向かう土方に、銀時がホッとしながら着いて行く。

2人きりになってから土方は煙草に火を点け、一度大きく吸って吐いてから改めた。

「で? 生半可な理由じゃ、公然わいせつの罪は消えねーぞ」

「わ、わいせつじゃないからっ、俺に必要なのは愛なんですぅぅぅ!!」

「……あ……?」

銀時にはおおよそ似合いそうにない単語が出てきて、土方が眉間にシワを寄せたので銀時は気恥ずかしそうに説明する。

「……昔からのダチからお中元が贈られてきてさ……美味そうな菓子だったから食っちまったんだけど、とんでもねー効果がある代物で……」

「……てめーはダチに怪しいもん盛った菓子を贈られてんのか」

「いや、ソイツは一応善意のつもりなのよ。悪気はねーんだけど的ハズレっつーか。それに仕事柄、星間を行ったり来たりしてるから、おかしなもんを手に入れやすいというか……」

「……つまり、天人製の薬品的なもんを食っちまったってことか?」

「そういうことです」

「それとさっきの痴漢行為がどう関係してんだ」

「せ、説明しなかったのは悪かったけど、限界だったんだよ!」

「限界?」

「…………あ……あい……あ………」

「?」

「……あー…………がぁぁぁ!! 言えるか!! つまり、す、好きなやつを抱き締めないと死んじまうんです!!」

分かりやすいような省略しすぎなような事情を聞いて、土方は文句を言いたかったのに言葉にならなかった。

銀時が言い躊躇った言葉が"愛"であることに気付いてしまったから。

なんとなくで付き合い始め、"好きなやつ"と表現されるのだって初めてなのに、それ以上の気持ちが銀時にあるとは思ってなかった。

銀時のほうもそれ以上言い難いぐらい照れてしまっているし、土方のほうから話をシメることにした。

「…じゃ、じゃあ、もう大丈夫なんだな?」

もう苦しくなさそうだし、だったらこの恥ずかしい場から逃げてしまいたかったのに、銀時は微妙な顔で頷く。

「うん。今日は大丈夫」

「そうか、じゃ、もう帰…………"今日は"?」

「薬が切れるまで、毎日同じことをしないと死んじゃうんだよねぇ」

「…………あ、そ。じゃあな」

「ちょ、ちょ、待っ!! お願いぃぃぃ、死んじゃうから! ホントに死んじゃうからぁぁぁぁ!!」

呆れ顔で帰ろうとする土方に、銀時はすがり付いて懇願した。


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