原作設定(補完)

□その49
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#483

作成:2019/08/06




「大好きです!! 俺と結婚してくださいぃぃぃ!!」

真昼間の人通りの多い商店街で、そんな必死で真剣な声が鳴り響いて人々は振り返る。

近頃流行りの"大勢の人が居る前でサプライズ"的なプロポーズかと、ちょっぴり甘酸っぱい気持ちになった人々は、声のしたほうを見て"あれ?"と顔をしかめた。

そこにはプロポーズの勢いで抱き付いてしまった銀髪の男と、抱き締められている黒髪の男がいた。

しかも黒髪の男のほうは真選組の隊服を着ていて、風貌から副長の土方十四郎であることが分かる。

銀髪のほうも、このあたりはかぶき町に近いので"万事屋銀ちゃん"は割りと有名で、経営者の坂田銀時であるのは明白だ。

『え? まじで? あの2人、そういう関係だったの?』

という気恥ずかしいような苦笑いは起こらなかった。

なぜなら、土方十四郎はその"通り名"のとおり、鬼の形相をしていたから。

銀時に抱きつかれたままになっている土方が低い声で、

「おい、どういうことだ、これは」

そう誰かに問いかけるような言い方をする。

周りの人々は"え!? 私!?"と戸惑ったが、土方の視線が背後のほうの建物に送られたことで"相手"が分かった。

建物の間から子供が2人、悪びれた様子もなく出てくる。

銀時が"万事屋銀ちゃん"で知られているように、一緒に働いている子供2人もまあまあ知名度があった。

「さすが真選組副長アル。よく我々に気付いたな、ぶははははっ」

「こんにちは、土方さん」

「なに普通に挨拶してるアルか、新八っ!」

「いや、バレバレなんだから挨拶ぐらい普通にしておこうよ」

江戸の子供たちは悪名高い真選組には近寄らないようにしているのに、2人は土方相手でも普通っぽく話している。

噂では、万事屋と真選組は仲が良いとか、逆に仲が悪くて喧嘩ばかしてるとか、よく聞いていた。

三人のこの様子だと前者と後者を足して2で割ったような関係にも見える。

周りの人々に注目されているのも気にせず、3人は会話を続けた。

「挨拶はいい。こいつ、どうしたんだ」

「どうって、プロポーズしたにきまってんダロ」

「だから、なんでだ」

「プロポーズする理由なんて1つアル」

「誤魔化すな。コイツ、正気じゃねーだろーが」

土方が言いながら、三人が会話しているにも関わらず抱き付いたままの銀時の額を、指でぐいーっと押した。

それでも離れようとしないし、文句を言おうともしない。

言われてみれば確かにぼんやりしたような目をしているような気もするが、普段から"死んだ魚の目をしたやる気のなさそうな男"だと知っている人にとっては微妙な違いだった。

だが、

「え、分かるんですか?」

新八がそう答えたことで、本当に"何か"ある、ということになる。

"銀さんに一体何が起こったのか!?"というちょっとミステリーな気持ちで聞き耳を立てた。

「おかしなモンでも食ったのか?」

「催眠術アル」

「…………催眠術?」

まさかの"催眠術"という展開に、土方も周りの人々も"は?"という顔になる。

それに構わず神楽は説明を続けた。

「銀ちゃん、好きな人がいるけど全然素直になれなくて、いつも喧嘩ばかりしてしまう言ってたネ。だから私が昨日テレビでやってた催眠術をかけてやったアル」

「……かけてやったアル……って、素人がやってかかるもんか?」

「私はなんでもできる女ネ!」

「たまたまかかっちゃっただけだと思うんですけどね」

「たまたまじゃないアル! お前も"恥ずかしい告白をする"催眠術にかけてやろうか! ぶははははは」

「やめて! 神楽ちゃん! それだけは勘弁して!!」

閣下みたいに高笑いをしながら神楽がさっと"五円玉を糸で吊るした"ベタな催眠術グッズを取り出す。

そんなもので催眠術にかかっちゃったの?、と疑いたくなる代物だが、新八がものすごく嫌がっているところを見ると本当らしい。

感心する人々を余所に、銀時に抱きつかれている土方は難しい顔をしていた。

「おい……それは分かったが、じゃあ、なんでこんなことになってんだ……やっぱり失敗してんじゃねーのか?」

相手を間違えてるんじゃないか、という素朴な疑問だったのだが、神楽がケロッと爆弾発言。


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