原作設定(補完)
□その49
3ページ/22ページ
#482
作成:2019/07/31
銀時はぴったりと閉められた和室の前に座って難しい顔をしていた。
中には土方が居る。
「絶対に覗くなよ」
そう言って和室に篭もってしまったのだが、声をかけても黙って待っても全然出てこない。
聞き耳を立てるとカシャカシャと金属が当たるような音がずーっと聞えている。
中で一体何をしているのか。
気になるが"絶対に覗くな"と言われているので銀時は待った。
だが土方は出てこない。
何を言ってもどれだけ待っても出てこない。
銀時は我慢できず、とうとう襖をそーっと開けて中を覗いてしまった。
そこには、真っ黒い鶴のような鳥が一生懸命マヨネーズを作っていた。
ぽかんとしている銀時に、土方の声で鶴っぽい鳥が喋った。
「見たな」
「え? ひ、土方くん?」
「見るなって言ったのに。俺は以前、お前に助けられた鶴っぽい鳥だ」
「……鶴っぽい鳥? 鶴ではないの? どっちにしろ助けた覚えないんだけど……」
「恩返しにきたが、正体を見られたとあってはここにはいられねぇ」
「ええっ、ちょっ、待っ……」
「じゃあな、万事屋」
黒い鶴っぽい鳥はそう言って、和室の窓から外へ飛んで行ってしまった。
「ひ、土方くぅぅぅぅぅん!!!」
大量のマヨネーズが転がる和室に銀時の声が鳴り響くのだった。
「土方くぅぅぅぅぅん!!! ……はっ!!」
自分の声で目を覚ました銀時は、伸ばした手の先に天井が見えて我に返る。
万事屋の和室でちゃんと布団に寝転がっているということは、
「…………夢、か……」
そうつぶやきながら、ちらりと横を見たがマヨネーズも転がっていない。
へんな夢を見たなぁ、と思うのだが、原因はまあまあ分かっていた。
ここしばらく土方が万事屋に来ないので、お土産を期待している神楽に、
「フラれたアルか?」
なんて言われたせいだ。
会えてすらいないのだからフラれるはずはないが、このままフェードアウトされてしまう可能性はあるかもしれない。
なんてことを考えてしまい、"飛んで逃げて行ってしまう土方"なんて夢を見たんじゃないかと思う。
土方からの連絡を待つつもりだったけれど、早急になんとか無理矢理にでも会わないと夢見が悪くて落ち込んでしまいそうだ。
だが仕事の邪魔をしたら怒られるので、どうやったら自然に会えるかを考えていたら、"土方"は向こうからやってきた。
「銀さん、山崎さんが何か依頼があるんっていうんですが……」
「……山崎? 誰それ?」
「ジミーアル。地味なモブアル」
山崎がもう中に案内されていることを知っていながら酷いことを言う二人だったが、山崎はツッコミ一つ入れずに銀時の前に来て、真剣な表情で言う。
「預かりモノをして欲しいんです」
「……預かり物?」
「コレなんですが……」
山崎は持ってきた紙袋から両手に乗るぐらいの小さな箱をそーっと取り出した。
一見普通の箱だったが、ポツポツとたくさん空気穴らしきものが開いていて、中身が生き物だというのは想定できる。
なので銀時は嫌そうな顔で苦情を言ったら、
「生き物は困るんですけどぉ。うちには力加減のできない怪力娘が……いてっ!」
「何アルか? 何アルか?」
銀時を殴りつつ神楽が興味津々で身を乗り出してきた。
山崎も大概神楽の性格を分かってきているので、警戒しながら箱を静かに開ける。
そこには、小さくて黒くて丸くて漫画みたいなフォルムの小鳥がちょこんと座っていて、目を瞑り眠っているようだった。
「小鳥アルぅ」
小鳥を間近で見ることがあまりない神楽は目を輝かせて見ているが、銀時は別なところに着目する。
小鳥には服が着せられていて、それは真選組の隊服のデザインと似ていた。
「なんで服着てんの、この鳥。そういう趣味? 俺はペットに服を着せるのはどうかと思う派なんだよねぇ」
「着せてるわけじゃありません……実はこの鳥…………副長なんです……」
意を決して山崎が爆弾発言をしたのに、銀時たちは何故かきょとんとしている。
「……あの? 副長なんですけど……」
「フク鳥、って聞いたことない鳥ですね」
「いや、俺は聞いたことあるな。古の伝説の鳥で手にした者には幸福が訪れるという"福鳥"だろ」
「お腹が大きいから"腹鳥"かもしれないアル」
言葉にしてしまうと意味が変わってしまうのを利用してボケまるくる三人に、山崎は興奮気味にツッコんだ。
「違います! 真選組副長、土方十四郎のことですよ!」
「…………は?」
「…………ひじ、かたさん?」
3人は改めてジッと小鳥を見る。
.