原作設定(補完)

□その48
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神楽がぴゅーっと部屋に戻って静かになってから、改めて銀時は土方に問う。

「で?」

「……実は……総悟のことなんだが……」

「沖田くん?」

予想外の言葉が出てきて『へえ』と思っていたら、土方は振り返って何か様子を伺うようにしてからもう一度銀時のほうを向き、とんでもないことを言い出した。

「……どうやら好きな女が出来たらしいんだが……それがチャイナじゃないかと思って……」

「…………神楽?」

「……そうだ」

どうりで神楽には聞かせられなかったし、立ち聞きしてるんじゃないかと様子を伺ったり。

納得はしたが、銀時は眉間に深いシワを刻む。

「"思って"って? 沖田くんから聞いたんじゃないわけ? 気のせいじゃねーの?」

「……チャイナの名前が直接出てきたわけじゃねーが……総悟から聞いた話ではある……」

「沖田くんとそんな話をしたりすんの? おめーにだけは言わなそうだけど……」

「……近藤さんと話してるのを……近くで聞いてた……」

そこでようやく土方が酔っ払っていたのと繋がった。

真選組の飲み会か何かで、未成年のくせに酔っ払った沖田が近藤相手に"恋バナ"をしたということじゃないかと思う。

なら沖田の口から語られたこととしても、もう一つ疑問がある。

「つーか、本当に神楽なわけ? 俺は沖田くんの交友関係知らないけど、他に仲良くしてる子とかいるんじゃねーの?」

再度否定されて、銀時相手に渋々真面目に話をしていた土方はムッとしたらしい。

「じゃあ、てめーは、"大食らいで生意気で下品で口汚くて馬鹿力で態度が悪くて小憎たらしくて可愛くない、けど、可愛い"って女が他にいると思うのか」

おそらく沖田が言ったであろう想い人の特徴を上げられて、銀時はぐっと口を閉ざす。

ほとんど悪口だけれど、最後の"けど、可愛い"ってこところに愛情を感じなくもないし、沖田が言いそうな気もする。

ならば沖田の片想いの相手が神楽だと仮定してみた銀時は、なんだか胸がもやっとするのを感じた。

それが何なのか分からないし、口にすると余計にモヤモヤする予感がしたので止め、土方に訊ねる。

「で?」

「あ?」

「事情は分かったけど、依頼の内容は?」

いろいろ話しておきながらちょっと躊躇った後、土方は言いにくそうに話す。

「…………チャ、チャイナにその気があるかないか……確かめて欲しい……」

「……今まで苛められた仕返しに、沖田くんがフラれる姿が見たいの?」

「し、仕返し!? どんだけ小せぇ男だ、俺は!」

「……じゃあ、何」

「……ぎゃ、逆に決まってんだろ……」

「……沖田くんと神楽が付き合えばいいと思ってんの? そのためにおめーがわざわざ俺に依頼に?」

それも意外だ。

沖田から土方への日頃の悪行の数々を知っていると、沖田の幸せを願えるような人間だとは思えなかった。

それでも弟分(に見える)のことは可愛いと思っているのかな、と銀時は考察したのだが、事実は"意外"でもなかったようだ。

銀時に言われて土方は眉間にシワを寄せた苦悩の表情で、

「…………あ、アイツに彼女でもできれば…………俺にかまけてる時間が減るだろうが……」

「……は?」

「アイツはヒマだから俺の命を狙おうとするんだよ! ヒマだから俺が困ってるの見て楽しみたいんだよ! ヒマだから手の込んだイタズラをしようとするんだよ! 今日だって、俺は酒は控えめにしようと思ってたのに、いつの間にか店にないアルコール度のつえー酒に摩り替えられてて、酔った勢いでここに来る羽目になっちまったんだよ!」

興奮したせいで醒めかけていた酔いが回ったらしく、土方は言い切ったあとでぐったりと頭を垂れる。

つまり、沖田のせいで土方は泥酔して夜中の万事屋に押しかけて騒いだ、らしい。

思ったとおり二人の怨恨は深そうだし、割と一方的に攻撃されている土方の気持ちも分からなくはない。

が、ソレはソレでイラッとする部分が銀時側にもあった。

「……ってことは、自分の身代わりに神楽をドS王子に与えようっての?」

今までのことを振り返っても、沖田は神楽相手に喧嘩でも手加減していた様子はない。

そんな沖田と神楽が付き合ったりなどしたらどんな大変で怖いことになることか、と銀時は考えてしまったのだが、土方は頭を上げて慌てて言い訳する。

「み、身代わりとかじゃねぇ……アイツは普段あんなだけど……ミ……姉貴の前では割と素直だった……だから付き合えばチャイナにも優しくなるんじゃねーかと……」

ああ、と銀時も昔のことを思い出して納得はした。

神楽相手にすぐ素直になれるかどうかは分からないが、そういう可能性がないこともないかもしれない。

そのちょっとした可能性に縋りたいほど、土方が切羽詰っているということだろう。



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