原作設定(補完)

□その48
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#479

作成:2019/07/14




「……なんか今日は暑いな」

そう呟いた土方に、山崎は書類を整理する手を止めて首を傾げる。

「そうですか? わりと涼しいですけど……」

7月とはいえ今日は天気も悪いし、山崎の体感温度では20度といったところ。

が、土方はうんざりした顔でシャツの袖をまくったり、緩めた襟元をパタパタさせて風を送っている。

「まあ、ようやく夏っぽくなってきたったことか」

「夏は暑くないと困りますしね」

内心で"そうかなぁ"と思いつつ山崎は適当に相槌をうって、終わった書類を持って副長室を出た。

異変を感じたのは、1時間後に戻ってきてからだった。

襖を開けた途端にぞわっとするほどの冷気が廊下に流れ込んでくる。

「うわっ、寒っ! な、なんですかっ!?」

部屋に入るとクーラーから冷えに冷えた空気がどんどん排出されていた。

それだけでも十分おかしかった。

普段から我慢強いというか、ちょっとぐらい我慢するのが当然と思っているのか、土方がクーラーを使うことは少ない。

なのにおそらく有り得ないぐらいの温度に設定してクーラーを動かしている上に、

「……山崎ぃ。クーラー全然効かねぇぞ。電気屋呼んでみてもらってくれ」

シャツの前を全開にしダラダラと汗をかいた土方が、イライラした様子でそう言ったのだ。

山崎が慌てて土方に駆け寄る。

「副長!? どうしたんですか!?」

「どうもこうもねー、暑いんだよ。異常気象か? 温暖化か? ったく、もっと環境問題を…………って、山崎、てめーずいぶん平気そうじゃねーか」

「……平気じゃないです……むしろ寒いです……」

「あ?」

時期が夏だけに事態を把握できなかった土方も、山崎が持ってきた温度計を見てようやく察する。

最低温度に設定されたクーラーはちゃんと仕事をしていて、室温は15度まで落ちていた。

だが土方は全身で汗をかくぐらい暑い。

「……ど、どういうことだ……」

「体調はどうです? 風邪でもひいてるのかな」

「いや、別に……」

念の為に体温計で測ってみたが、確かにちょっと高いぐらいで"熱がある"とまではいってない。

土方自身も、自分が熱い、というよりはただ単に外気が暑いと感じているようだ。

「どうします? 病院行きますか?」

「…………いや、もう少し様子をみる」

暑くて仕方ない、という以外は具合が悪いということもなく、大袈裟にするのもまだ気が引ける。

そう言うだろうな、と山崎も思っていたので、

「じゃあ、冷たい飲み物でも持ってきます」

外からの冷却が無理なら内側からならどうだろう、と提案したことで、"要因"は発覚した。

「頼む。ああ、さっき出してくれたヤツが美味かったから、あれがいいな」

「え…………今日は何も出してませんが……」

「ん? じゃあ鉄か?」

「いや、今日は非番のはずですけど……」

「じゃあ、誰が…………………」

「…………」

「総悟ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」




汗だくで怒る土方と、困り顔の近藤と山崎の前で、沖田は不機嫌そうな表情を浮かべる。

「なんで真っ先に俺なんですかぃ。土方さんを憎んでるヤツなんで他にもいまさぁ」

「だからって直で薬を盛ろうなんてヤツはてめーしかいねーんだよ」

「言いがかりでさぁ。俺は何にも知りやせん」

いつものように責める土方ととぼける沖田で不毛な言い合いが始まるところだが、汗だくの土方を哀れに思った近藤が口を挟む。

「総悟。トシを早く戻してやりてーんだが、解決方法を知らねーか?」

「好きなヤツに触ってると涼しくなりまさぁ」

「知ってんじゃねぇか!!!! …………って、な、なに?」

あっさりと白状した沖田の話は、ある意味、土方を涼しくさせた。

「最近土方さんが非番になると毎回出かけたり、有り得ないことに外泊してきたりするんで、隊士たちのあいだでコレができたんじゃねーかって噂なんでさぁ」

ぴっと小指を立ててそう言う沖田に、近藤が驚いて土方に詰め寄る。

「本当か、トシ!!!」

「い、いや……それは……」

「どこの誰と付き合ってんですかぃ? 教えてくだせぇ」

「教えてくれ、トシ!!!」

棒読みの沖田と、真剣な表情の近藤に見つめられて、土方はそれじゃなくても汗だくなのに嫌な汗を混じらせそっぽを向いた。

「か、カンケーねーだろ」

「ってことはホントに居るんだ!?」

「い、居ねーし!」

「って具合にはぐらかすと思ったんで、言わざるを得ない状況にしてやったんでさぁ」

図星なことを言われて土方はぐっと口を噤む。

たかがそんなことでおかしな薬を盛る沖田が心底恐ろしくなる土方だった。

だったら暑いのをずっと我慢すればいいと思った土方だが、沖田はにやりと笑って嫌なことを言う。

「別にどこの誰かは言わなくてもいいですけど、そのお相手のところへ行って触らないと熱中症で死にやすよ」

「……っ……てめー……」

土方が誰に触りに行くか、それを確かめるまで後を着いてくる気満々のような沖田に、土方は苦虫を噛み潰す。

どんなに撒いても見つかりそうだし、それに本当にこのままでは熱中症で倒れかねない。

だったらここで相手を白状したほうが手っ取り早いのだが、そうできない理由もあった。

土方は汗で湿った掌をぎゅっと握り締め、

「……近藤さん……ちょっと出かけてきもいいか……」

「え? もちろんかまわねーが……大丈夫か?」

土方の相手は気になるけど暑がっているのを心配する近藤に、小さく頷いた。



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