原作設定(補完)
□その48
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#476
作成:2019/06/30
万事屋、深夜。
呼び鈴があるというのに玄関扉を激しく叩かれて、ガラスがガチャンガチャンと室内に鳴り響く。
ソファで転寝していた銀時はその音で飛び起きた。
客にしては乱暴だし、場所が場所だけに酔っ払いの可能性もある。
面倒くさいなと思いながら部屋を出ると、
「……何アルか……」
やっぱりうるさくて目を覚ましたらしい神楽が不機嫌そうに出てきたところだった。
2人で玄関を見ると、夜の街かぶき町の明かりで男の姿がシルエットで写っている。
「神楽、ちょっと出てこいよ」
「……なんで私アルか」
「せっかく起きてきたんだから、役にたってこい」
「銀ちゃんだって起きてるアル。こういう時は男が出るものネ」
「あ、それって男女平等の精神に反してると思うなぁ。よくないよ、そういうの」
「……男女平等の前に私は子供アル」
「あ、それもどうよ。何かっていうと"私はもう子供じゃない"とか言うヤツに限って、都合の良いときだけ"子供だ"って言い出したりするよねー」
「……そういうこと言うヤツに限って、都合の良いときだけ"子供だ"って言うアル」
「ああ?」
「何だヨ」
室内で"面倒ごとの押し付け合い"をして睨み合っている間もずっと玄関は激しく叩かれていて、イライラした2人は玄関まで行くと神楽がカギを開け、銀時が扉を開けて叫んだ。
「「うるせぇぇぇぇぇぇ!!」」
「いるならとっとと出てこいコラァァァァ!!!」
扉の向こうの男は見覚えのある姿と声で、逆に怒鳴り返してきた。
真選組副長土方十四郎が、とろんとした目元を吊り上げて真っ赤な顔で立ちはだかっている。
「……なんだ、トッシーアルか」
「いやいやいや、許されないだろ。警察が真夜中に民間人宅でなんてことしやがるんですかコノヤロー」
顔見知りだからと納得する神楽に対し、銀時は相手が"犬猿の仲"の土方だけに余計不機嫌になった。
土方からは酒の匂いがぷんぷんするし、どう見ても酔っ払いの狼藉だったからだ。
だが土方のほうも負けじと言い返してくる。
「ああ? てめーは万事屋だろうが。客に対してその態度はなんだコラァ」
「客ぅぅぅ? なんで警察が依頼なんてしてくるんですかコノヤロー」
「プライベートなことだからに決まってんだろコラァ」
「プライベートぉぉぉ? 余計に気持ち悪いわコノヤロー」
「貧乏人が仕事相手を選り好みしてんじゃねーコラァ」
「誰が貧乏人だ! その貧乏人が納めた税金で給料貰ってるてめーは何様だコノヤロー!」
「てめーより俺様のほうが税金も多く払って……」
毎度のくだらない言い合いをしている二人に、神楽がぐいっと割って入って、
「うるさいアル。近所迷惑ネ」
もっともなことを言われたので、
「「……はい。すみません」」
大人しくなる大人2人だった。
土方が"依頼主"だと主張するのなら仕方ない。
真夜中ではあるが中に通し、千鳥足の土方に銀時はやれやれという視線を向けながらソファに座らせ、自分も向かいに座る。
「粗茶……は無いから水をどうぞ、アル」
新八の代わりにお茶汲み役をする神楽だったが、お茶を入れるのは面倒なのでコップに水(直水道)を入れて出してきた。
が、酔っ払っている土方には妥当だったらしく、ぐいっと一気に飲み干してから、
「……すまないがもう一杯くれ」
とおかわりまで要求される。
おかわりも半分ぐらい飲んでから深―――く息を吐いて、ようやく土方は銀時を見た。
「……騒がせてすまねーな」
どうやらちょっと正気に戻って恥ずかしくなってしまったらしく、呟くように土方は言う。
急に態度を変えられたら銀時のほうだって、応戦してしまったことが恥ずかしくなるじゃないか、とばかりに頭を掻いた。
「……まあ、いいけど……で? 依頼って?」
「……それは……」
銀時が早速本題に入ったのだが、なぜか土方は言いよどんでからチラリと視線を銀時の横に向ける。
それは当然のように座っている神楽がいた。
従業員なのだから居て当然なのだが、今回の依頼主にとっては"差しさわりがある"のだと銀時がすぐ察する。
「……神楽、おめーは先に寝れば」
「なんでアルか。仕事の話なら私も聞くアル」
「俺一人で十分だって。それに、睡眠不足は美容の大敵だぞ」
「! そうアルな。じゃあ、明日聞くアル」
普段は色気も素っ気もないくせに、"美容の大敵"という言葉には素直に反応するのを銀時は心得ていた。
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