原作設定(補完)

□その47
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その日の夜、いつもの定食屋で土方を発見した銀時はわざとらしく声をかける。

「あれぇ、土方くんじゃん、久しぶり」

「…………おう」

一瞬驚いたあと、いろんな感情が混じった複雑そうな顔で挨拶を返してくれた。

沖田からあんな話を聞いていたので、今日の銀時は"土方観察モード"で様子を伺う。

よっぽど沖田の嫌がらせが鬱陶しかったのか、この定食屋では犬の餌しか頼んでいるところを見たことがないのに、今日は酒とつまみまで並んでいる。

長居する気の土方の隣に、銀時は当然のように座った。

「……なんでそこに座る」

「いいじゃん。親父ぃ、宇治銀時丼と、俺にも酒となんかつまみちょうだい」

「あいよ」

隣に居座る気満々の銀時の注文に、土方は眉間にシワを寄せたけれど文句は言わなかった。

嫌ならさっさと食事を終えて店を出ればいいのに、土方は煙草を吸いながらゆっくりと酒を飲んでいる……気がする。

なので、あまり話題にされたくないだろう話題も振ってみた。

「そういや、例の話はどうなったの?」

「……こんなとこで話すことじゃねーだろ」

「じゃあ、最近のオススメテレビ番組は?」

「……なんだそりゃ」

脈絡もない話に切り替えた銀時に、土方は笑う。

それが"可愛い"と思えるのは、"好かれている"という情報があるからだろうかと銀時は考えながら酒を飲んだ。

結局、土方は銀時が食事を終えるまで隣に座っていた。

チビチビだけれど酒を飲み続けていたせいで、少し酔っているようにも見える。

なので、

「土方くん。久しぶりにうちに来ね?」

そう言って見たら、どうやら深読みしたらしくて露骨に嫌な顔をされたので、何か言われる前に補足してやった。

「酒、うちで飲んだほうがのんびりできるじゃん。ちょっと良い酒、あるんだよねー」

もちろん嘘だったが、土方もそれ気付いていて、

「……分かった」

と頷いたように見えた、気がする。

どうやってそそのかそうかと思っていたので、素直に着いて来てくれるなら楽チンだ。

なので万事屋に到着すると"期待"に答えてやった。

明かりの消えている万事屋に入り、土方が玄関の扉を閉めるのと同時にガチャと扉のガラスが鳴る。

銀時に体を押さえつけられた土方の背中が当たった音だ。

自分より酒の味が強い土方の唇や舌を堪能する銀時に、土方は抵抗しなかったが、ゆっくり体を離すと睨まれた。

「……酒、飲むんじゃなかったのか」

「飲みたい? 飲むなら用意するけどぉ」

悪びれもなくそう返す銀時に、土方は呆れた顔で溜め息をつく。

「……いらねぇ。俺は帰……」

帰ろうとする土方の体を、扉と腕の間に閉じ込めたまま銀時は顔を寄せて言った。

「ああ、そういえば、店で聞けなかったこと、一応聞いておきたいんだけど」

「……なんだよ……」

「土方くんが告れるように協力するって言ったのに音沙汰ないからさぁ。どうしたかなぁ、って気にしてたんだよ、これでも」

呑気な口調でそう言う銀時に、土方は眉間にシワを寄せて礼を言おうと試みるが、

「……面倒な依頼をして悪かったな。気にかけてくれて感謝するが、もうこの話は……」

聞きたいのはそんなことじゃない。

土方の言葉を遮って核心をついてやることにした。

「まあまあ、そう言わずに、相手を教えてくれれば協力するって」

「……だから、それは……」

「大丈夫、万事屋銀ちゃんにお・ま・か・せ。なんとかしてくっつけ
てやるから」

「………………」

しつこい銀時に土方が黙ってしまう。

怒ってしまったようにも見えるが、"真実を知っている"銀時にはその裏側も見えた。

ご親切にも"他の男とくっつけようとしている"銀時に、腹を立てる以上に傷ついている。

だから精一杯に虚勢を張って返事をしたのに、

「マジで、いいって言ってんだろ。絶対に無理なんだから、余計な世話だ」

「言ってみなきゃ分かんねーじゃん」

「分かるんだよ」

「だーかーら、言ってみろって」

「しつけぇ! 絶対に言わ……」

「土方くんの好きなヤツって、俺?」

「!!」

真っ直ぐに自分を見つめた銀時の言葉に、土方は始めてあからさまに動揺した。

沖田ががっかりしたように、確かに銀時の"恋愛思想"は子供以下かもしれない。

が、何度も肌を重ねながら気付けなかったのは、土方のほうも必死に気持ちを隠していたからだ。

けれど今、銀時が見ている土方は全身で気持ちを吐露していて、我に返っても上手く隠しきれていない。

「な……何言ってんだ……てめーは……」

動揺しながらも否定しようとするので、

「まあ、沖田くんに聞いたんだけどね」

そう言ってやったら、速攻で観念してくれた。



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