原作設定(補完)
□その47
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一月後、銀時は団子屋でぼーっとしながら団子を食べていた。
土方からの"簡単で気持ちよくて割の良い仕事"が無くなってしまったので、普通の疲れる仕事をこなしてきた後だった。
また依頼してくんないかなぁ、とちょっぴり期待はしても、こちらから電話するような話でもない。
だが偶然会ったら「その後、どう?」ぐらいの話はしてもいいと思ってるのに、姿も見せない。
『何度もエッチした仲なのにツレネーな』
なんて拗ねていたら、見覚えのある隊服が視界の隅に入って動揺してしまう。
隊服の中身が土方ではなく、
「旦那、相変わらずシケたツラァしてやすね」
と可愛い顔で憎たらしいことを言う別の子だったからだ。
沖田は隊服を着ているくせに、当然のように団子を注文して銀時の隣に座る。
銀時もまだ団子は残っているし、声をかけられた以上無視もできないし、まあいいかと挨拶に応じた。
「沖田くんはも相変わらず暇そうだね」
「何言ってるんですかぃ。この隊服が見えねーんで?」
「ああ、ごめん。プラプラ歩きながら団子屋に来たのしか見えてなかったよ」
やる気のない声でそんなやりとりをした後、並んだままもっさもっさと団子を食す。
沖田とはあちこちの"サボリスポット"で会うことがあったが、大概そんな感じで特に会話もなく終わることが多い。
なのに今日は珍しく沖田のほうから話題を振ってきた。
「そういや、最近は土方さんがお邪魔してねーんで?」
土方の話題だったことはともかく、内容に一瞬反応が遅れた。
「…………は? 土方くんが、なに?」
「ちょっと仕事が早く終わった日は旦那ところに行ってるって聞いてるんですがねぇ」
「だ、誰がそんなこと……」
「土方さんでさぁ。万事屋に出入りしている証拠をつきつけてやったら、渋々ゲロしやしたよ」
『えええぇぇ!!? 依頼のことは秘密だって言ってたのに、よりによって沖田くんに話しちゃったの!?』
という顔をしている銀時に、沖田が興味深そうに訊ねる。
「旦那……上手いそうですね」
「!!!? な、ななな、なにがっ!?」
「手品でさぁ」
「………………手品?」
「宴会で余興の1つもないと"ツマラナイ野郎だ"と俺に言われるのが嫌で、旦那に手品を習っるって言ってやした」
銀時は内心でほーっと息をついた。
どうやら沖田相手にごまかしきれないと悟った土方が、万事屋への訪問は認めた上で、訪問理由にそういう話をしたようだ。
そういうことは事後報告してくれなきゃ、と思いつつ、銀時はなんとか話を合わせてみる。
「あー……うん、まあね。万事屋の仕事にはイベントの余興とかもあるからね、芸の1つや2つ持ってるんだよ」
「へえ。じゃあ、なんかやってみてくだせぇ」
だが沖田のほうはそれであっさり納得はしてくれなかった。
「…………し、仕事で使う芸だから、タダでは見せられねーなぁ」
「これでいいですかぃ?」
懐から一万円札を取り出してそう言った沖田に、銀時は察した。
土方のごまかしは、全然ごまかせていなかったことを。
きっと何もかも知っていて、"ごまかせた"と土方を安心させておき、銀時がどう反応するか楽しんでいたのだろう。
深い溜め息をついて降参する。
「……相変わらずドSだねぇ。で? 俺に何を言わせてーの?」
「さすが、旦那は諦めるのが早ぇや。土方さんと喧嘩でもしたんなら仲直りしてしてくだせぇ」
「…………は? 土方くんと、なに?」
「土方さんが夜遊びしてくれてるおかげで俺たちも"鬼の居ぬ間に洗濯"ができてたんでさぁ。なのに急にでかけなくなったり、イライラして八つ当たり増し増し状態でウザイことこの上ないんで」
「……ああ……でもイライラしてんのは俺のせいじゃねーしなぁ……喧嘩もしてねーし……」
会わないでいる間の土方は、銀時がせっついたり煽ったりしたせいで、告白できずにイライラしているようだ。
ちょっと責任を感じながらそう呟いた銀時に、沖田はとんでもないことを言い出す。
「それじゃあなんでイライラしてんですかぃ? ずっと好きだった旦那と付き合えるようになってウザイぐらい浮かれてたのが、あんなに不機嫌になってるんですぜぃ」
「どっちにしろウザイんじゃん……………………え? 今、なんて?」
「不機嫌意なってる」
「その前」
「ウザイぐらい浮かれてた」
「もうちょい」
「ずっと好きだった旦那」
「そう、そこ! …………って、何、その冗談」
銀時が本気で"何言ってんの"という顔をしていたので、沖田も察した。
土方とのことをからかってやろうと思って話かけたのに、話がかみ合っていなかったことを。
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