原作設定(補完)
□その47
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そんなこんなで一月後、銀時は風呂上りにアイス(お徳用箱入りのヤツ)を咥えながら和室に戻ってきた。
布団に入ったままの土方は、背中で"話かけんじゃねぇ"という空気も醸し出している。
いつもならナニを致した後にはさっさと帰ってしまう土方なのに、今日はああやって背中を向けたまま動かないので銀時は放っておいて風呂に入ってきたのだ。
理由は分かっている。
"やれるもんならやってみろ"と煽ってから一月、最初から数えて5回目にして発言を後悔するメにあったから。
苦痛でも我慢でもない、いわゆる"色っぽい声"が漏れ、そんな声を出してしまった自分に動揺しているうちに、にいっと笑った銀時に思う存分ヤラれてしまった。
羞恥と疲労と後悔と苦悩で動けず、でも銀時の顔は見たくないので無言の抵抗を試みているようだ。
が、ようやくこの日がきたのだから、銀時も黙って見逃してはやらない。
布団の横にしゃがむと背中に向かって言った。
「なあなあ、ご感想は?」
「……な、なにがだ」
「俺、ちゃんと"良い仕事"できたんじゃね?」
「……そ、そうでもねー」
「またまたぁ、気持ち良さそうだったよ?」
「……ぐっ……」
本当は逆ギレして怒鳴りたいところなのだろうが、恥ずかしくて振り向けない土方は反論できず黙ってしまった。
その様子が『おもしろーい』なんて思った銀時だったが、"目標を達成"したことで"目的"を思い出した。
『……確か……そっちに目覚めたら好きなヤツに告白する、とか、そんなだったか?』
依頼目的はうろ覚えだったけれど、"そっち"に興味があったことも思い出す。
今日まで銀時に払った金は少なくないし、ここまでするほど想う相手。
初日のときは話してくれなかったけれど、今なら"仲良く"なれたことだしちょっとぐらい零してくれるかもしれない。
「つーことはさ、そろそろ決心できたんじゃね」
銀時がそう言うと、しばらく返事をしなかった土方は背中向きのまま体を起こし、脱ぎ捨てられていた着物を取って羽織る。
それからようやく、
「……ああ、そうだな……」
と答えた。
その声も後姿もあまり嬉しそうじゃなかったけれど、銀時は盛り上げるように明るく言ってやる。
「それじゃあ、鬼の副長さんも彼女……じゃねー、彼氏持ちになるわけだ。忙しいのに大変だなー」
「…………告るかは、分からねー」
「あ? そのために俺に仕事依頼したんだろーが」
「……そのつもりで一ヶ月、様子をみてきたけど……脈はなさそうだ……」
「珍し、ずいぶん弱気じゃねーの」
「……弱気にもなんだろ……その気のねーヤロウに告ったって……気まずい思いをするだけだ」
まあ、気持ちは分からなくねーけど、と銀時も思う。
だがそれでは自分のしてきたことが無駄になるような気もして、少し苛立ちもした。
それを解決した上で、もう一稼ぎする案を思いつく。
「ああ、だったらそっちも協力してやろうか。ソイツがその気になるように取り持ちゃあいいんだろ」
むしろ万事屋としてはそっちのほうが得意だし、そうすれば相手が誰かも知ることができる。
名案だと思ったのだが、やはり土方はすぐに返事をしなかった。
それでも土方にとっては悪くない話のはずだ。
だから、土方が立ち上がって今までと同じように身支度を整えている間、黙って返事を待っていたのだが、
「…………考えておく」
と拍子抜けな言葉が返ってきた。
そしていつもの封筒を差し出しながら、
「……いろいろ……助かった……」
そう言って土方は小さく笑った。
「…………おう、まいど」
自分に向けられた"普通の笑顔"にきょとんとしている間に土方は帰ってしまい、残された銀時は封筒を見つめながら頭をぽりぽりと掻く。
土方にまだ告白する気がないんだったら、"依頼は達成"していないことになるのかなぁ、なんて考えた。
が、その日以来、土方からの連絡はなかった。
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