原作設定(補完)

□その47
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#470

作成:2019/05/20




玄関の呼び鈴が鳴ったとき、部屋の時計の針は夜9時を過ぎていた。

銀時は面倒くさそうな顔をして、だらっとソファで寝転んでいた体を起こす。

本当だったらこんな時間の仕事は断るのだが、仕事があまりにもなくて、つまりは飯もなく、ひもじくてお妙のところに避難してしまった神楽に、

「仕事は絶対断っちゃダメアル!! どんな嫌な仕事でも必ず請けて稼がないと帰ってきてやらないアル!!!」

とぐっさりと釘を刺されていた。

そのときは、

「別にお前が帰ってこなくたって俺は全然困らないし。むしろ定春もいねーし食費が助かるし」

と言っていた銀時だったが、3日目にして落ち着かなくなってきた。

毎日出社する新八に神楽が家でのんびりしてる話や、神楽と定春にかかる膨大な食費に「いいのよ」と言いつつお妙が怒っていることを聞いたり、小生意気だけれど神楽を可愛がってくれていた近所の連中から文句を言われたり。

「しょうがねーなー」

と不貞腐れつつ、神楽を迎えにいくための金を稼ぐためには、深夜の依頼も断れない。

でも、できれば明日でも良いという仕事ならいいなぁ、と思いながら、

「はいはい、お仕事の依頼ですかぁ。いつでもなんでも承りますよぉ」

営業スマイルで扉を開けた銀時だったが、立っている人物を見て笑顔がすーっと引く。

真選組副長土方十四郎が、いつものような不機嫌な顔で立っていた。

顔を合わせれば喧嘩ばかりだったので、つられて銀時の顔も不機嫌になる。

「あ? こんな夜中になんの用ですかぁ、副長さん」

「……仕事の依頼だ」

「依頼ぃ? おめーんとこは優秀な部下がたくさんいるんだろうが、そいつらに頼めよ」

「……真選組は関係ねぇ。俺、私用の依頼なんだ」

そう言われて見れば、それを証明するためか土方は私服姿だった。

たとえ私用でもたいがいのことは山崎あたりに頼めるだろうに、そうできない"依頼"。

そしてできるだけ関わりたくないと思っているはずの万事屋に、わざわざ足を運んでまで頼みたい仕事の内容に興味が湧いた。

あくまでも"仕方ない"という表情を崩さず、

「ふぅん……じゃあ、ま、入れば?」

とても仕事を貰うほうとは思えない態度で中に入るように促す。

が、土方はすぐ動こうとはせず、

「……ガキ共はいるのか?」

そんなことを聞かれた。

「あ? いや、今はいねーけど……」

「…………そうか……」

"いない"のを確認したかったようで、土方はようやく中に入って扉を閉めた。

新八と神楽に聞かせたくないとなると、面倒くさい話になりそうなんじゃね、と銀時は心の中で舌打ちする。

まあそれならそれで依頼料をがっぽり貰えばいいかと切り替えた銀時だが、"面倒くさい"は想定以上だった。

「茶ぁ、いる?」

「いらねえ」

「あ、そ」

一応"社長"っぽくデスクのほうに座り、土方がソファに座るのを待つ。

「で? 仕事の内容は?」

銀時にそう訊ねられた土方は、前を向いたまま膝に置いた手をぎゅっと握り締め、一瞬躊躇ったあと言った。

「……俺と……寝てくれ」

思いも寄らぬ……これっっっっっっぽっちも思いも寄らぬことを言われ、銀時は動きが止まる。

「は?」と聞き返したくなったが、聞き違いじゃないことは、言ってしまったことを後悔しているような土方の顔をみれば分かった。

なのではぐらかすつもりではなく、念の為、確認はしてみる。

「一応聞くけど、"眠れないから寝かしつけて欲しい"とか、"寂しいから添い寝して欲しい"って意味じゃないよね?」

「……違う」

となれば"寝る"とは大人の専門用語になるわけで。

依頼内容は理解したものの、日頃の行いを考えるとその依頼をされる理由は分からない。

なのでそのへんは聞かせていただきたいものだ。

「なんで?」

「……な、なんで、ってなんだ……」

「ヤリてーだけなら吉原で女買えばいい。でも俺んとこ来たってことは男を試してーってことじゃねーの?」

「……そうだ」

「女ならよりどりみどりのモテモテ副長さんが、なんで男なんか?」

「…………気になるヤツがいる……"好きだ"と自覚して認める前に、ソレが可能かどうか試したい」

本気っぽくて真剣っぽくそう言った、真面目っぽくて堅物っぽい土方らしい、かもしれない話。

喧嘩するばかりで本当のところは何も知らないことに気付く。

色恋沙汰には詳しくなく興味がなかった銀時には、土方の言うことも"そんなもんか?"と思えた。

「ふーん」

土方が誰を想っているのかちょっと興味が湧いたが、まあ聞いても言わないだろう。



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