原作設定(補完)
□その47
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#464
作成:2019/05/01
「…………」
土方は深い溜め息をついて携帯を閉じた。
見ていたのは待ち受け画面になっていた日付と時間。
あと10秒ほどで5月5日が終わる。
「……期待してたわけじゃねーけどな……」
そう呟いてもう一度溜め息をついたあたりで日付が変わっただろう。
この年になると"誕生日"なんてどうでもいいし、祝われると気恥ずかしいし、それを建前に飲み会なんて開かれても煩わしいだけだ。
だから近藤ならび隊士たちには、
「俺の誕生日は祝うな。祝ったら切腹!」
なんて非道なことを言いつけてあった。
だが今年の誕生日、土方は祝ってくれる人間の訪問を待っていた。
のに、来ない。
連絡もない。
お互い不規則な生活をしているから、"絶対はない"と覚悟はしていた。
それに、
「つ……つつつ、付き合ってからはじめての誕生日なんだから、絶対に祝いに行くから待っててください! お願いします!!」
そう言われたとき、嫌そうな顔をして、
「てめーがその気でも、俺のほうが無理かもしれねーぞ」
なんて素っ気無く答えたのだ。
なのに全然諦めた様子もなく、
「だーかーら、こっそり忍び込んでおめーが暇かどうか確かめてから祝うから。忙しそうだったら渋々帰りますぅぅ」
そんな提案をされて、面倒くさいと思った。
なのに日に日に"その日"が近づいてくると、
『……せっかく来てくれるのに渋々帰らせるのも悪ぃよな……なんとか時間とれるかやってみるか……』
そう思い初めて時間を調整する自分がいた。
あんなに楽しみにされたらなんとかしてやりたいと思ってしまっても仕方ない、と言い聞かせて。
のに、来ない。
連絡もない。
土方は布団を敷いて灯りを消すと、布団の中でもう一度溜め息をつく。
"もしかして、土方が焦れているのを隠れて見ていて、こっそり布団に入り込んでくる気じゃないか!?"
と考えて警戒してみたものの、あたりは静かで人の気配もない。
本当に来ないのだ。
それを認め、
「……嘘つきヤロー。来ないなら来ないで連絡ぐらいしやがれ、腐れ天パ……」
悔しそうな声でそう呟いてから、土方は余計なことを考えないように頑張って、眠りについた。
それから1週間、銀時からの連絡は未だになかった。
普段から電話をしてくるタイプではないのだが、見回りのときに姿を現さないのは珍しい。
そろそろ怒るよりも、
「もしかしてまた何かトラブルに首をつっこんで、ケガをしたのを怒られたくなくて隠れてるのか?」
と心配になってきた。
今日はもう夜遅くて外出する言い訳を考えるのが面倒くさいので、明日にでも何かのついでに様子を見てこよう。
廊下を歩きながらそう決めた土方は、自室の襖を開けて中に入る足を止める。
感知センサーが付いているわけでもないのに明かりが点き、明るくなった部屋は色とりどりの"子供のお誕生日会"みたいな装飾で飾られていた、
なんだ、と思う前に、視角からパーンという音と同時に細い紙テープとキラキラしたものが降ってきた。
そして、
「多串くん、誕生日おめでとぉぉ」
クラッカーを手に持った銀時が、そう言って嬉しそうに笑った。
土方を驚かせようとした演出なので、呆然としている土方に"大成功〜"という気持ちなのだろう。
確かに驚いてはいたが、銀時の狙いとは違った理由でだ。
「屯所にいるのになかなか部屋に戻ってこねーから、日付変わっちゃうかと思ったよぉ」
だが銀時は呑気にそんなことを言うので、土方は眉間にシワを寄せて言った。
「……日付が変わるだぁ?……てめー……今まで何してたんだ」
「え? ……昼ごろにココに来て準備して隠れてましてけど……」
「そんなに!? ……じゃねぇ、この1週間のことだっ」
「1週間? 普通に、仕事してましたけど……」
「連絡もできねーほど忙しい仕事だったのかっ」
「……たいした用もないのに連絡したら怒るじゃん。今日来るのは言ってあったし、いいかなぁ、と」
「今日のことなんて知らねぇ! 来ないなら来ないって連絡ぐらい……」
「来ないって?」
「俺の誕生日にだよ!」
「……来たじゃん……こうして、ちゃんと……」
「何言ってんだっ、先週の俺の誕生日に来なかっただろうが!」
「……先週?」
とぼける銀時にイラついていた土方だったが、きょとんとしている顔がどうもとぼけているわけではないことに気が付いた。
銀時のほうも、何言ってんの?、と思っているように見える。
「……先週って……多串くんの誕生日って、4月だったっけ? あれ?」
「……俺の誕生日は5月5日だ……」
「だよね? だから今日……」
「今日は5月12日」
「…………はぁ? 嘘だぁ。そんなわけ……」
怪訝そうな表情の銀時に、土方は携帯を開いて日付と時間が表示されている待ち受け画面を見せた。
それを食い入るように見てから、銀時がさらに混乱したような顔になる。
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