原作設定(補完)

□その46
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#460

作成:2019/04/12




「今日こそ何か仕事してくださいよ! もうここには米の一粒もないですからね!」

「今日は新八んとこに行くアル! 飯がなかったらずーっと帰って来ないアルから、寂しかったらキリキリ稼げヨ!!」


そう叱咤激励して出かけていった2人を思い出し、銀時は深い溜め息をついた。

デスクに上半身をでれんと伸ばして電話を見つめているが、鳴らないものは鳴らないのだから仕方ない。

「……別に寂しくねーし……なんならずっと帰ってこなくてもいいし……」

不貞腐れてそうごちる銀時だったが、電話が「リ……」と鳴った瞬間に受話器を掴んでいた。

「はい! 万事屋銀ちゃん!!」

「うおっ!! 脅かすんじゃないよっ!!」

「……なんだ、西郷か……」

野太いおっさんの声が聞えてきて銀時はがっかりするが、それは救いの声だった。

「あんた、暇だろ。今日、店を手伝いに来な」

「…………えぇぇぇぇぇぇ」

依頼は喉から手が出るほど欲しい。

だが、西郷の"手伝い"といえば、当然アレである。

銀時の迷いのある拒絶の唸り声に、西郷は懇願してみるが、

「頼むよ。いつもはこの時期ちょっと暇だから店の子たちにリフレッシュ休暇をやったら、急に団体客の予約が入っちまったんだよ。旅行行くっての呼び戻るわけにもいかないだろ」

「…………でもなぁ……」

「特別ボーナス出すわよ」

「……そんなに困ってるなら手伝うよ、うん」

最終的には金で解決するのを心得ているので、あっさりと助っ人を獲得できたのだった。

銀時は渋々、という顔で店に向かう。

本当は"やりたくない仕事"であるが、

『これでアイツラも文句ねーだろ…………別に、一人でも平気だけどねっ!』

なんて素直じゃないことを考えるぐらいには、今回はやる気があった。

そして、店に着いてからもう一つ、やる気を出させる"モノ"を見つける。

「うぃーす」

「あらー、パー子じゃないのぅ、今日はよろしくねぇ」

「……おう」

開店前の控え室は女らしい匂いと雰囲気に満たされていた。

気立ても良いし、愛嬌もあるし、楽しい同僚たちなのだが、何しろ見た目がむさ苦しくて不気味だ。

今回も"酒と金"を心のより所に一晩頑張ろう、と思っていた銀時だったのだが、

「そうそう。今日はねぇ、他にも助っ人さんが一人来てるのよぅ。パー子ちゃん、面倒見てくれてあげるぅ?」

「あ?」

「あんたのヘルプについてもらってね。全くの素人さんだから、いろいろと教えてあげてちょうだーい。今は事務所にいるから」

本当に"面倒"を押し付けられてしまった。

「あー……素人じゃヘルプにならねーっての……」

ブツブツ言いながら事務所へ向かい、そこで待っていた"素人"さんを見て眉間にシワを寄せる。

その辺にあった手ぬぐいを被って眼鏡をかけて誤魔化そうとしているが、見覚えのある身体つきと、V字の前髪。

「…………何してんの、土方くん」

「ひ、ひひひ、人違いだ」

声色も変えているが、それで誤魔化せると思っているのだろうか。

こんなところに居る理由は知らないが、知人がいたほうが心強いだろうに他人のフリをしたいのなら仕方ない。

「あ、そ。じゃ、おめーの世話は他のやつに頼……」

素っ気無くそう言って背中を向けた銀時だったが、それ以上前に進めなかった。

振り返ると"人違い"さんが右手で銀時の着物をしっかり掴み、左手で手ぬぐいと眼鏡を外す。

気まずそうな恥ずかしそうな苦々しい顔をした土方が現れた。

「……ここがどこだか、どういうとこだか分かってんの?」

「……わ、分かってる」

「じゃあ…………あー、話はしたくしながらでいーや」

なんで、と聞こうとして、開店まであまり時間がないに気付いた。

自分のしたくはぱぱっと終わらせることができるけど、問題はこの目の前でしょぼんとしている未知数な男だ。

見た目が良いからといって女装して綺麗になるとは限らない。

銀時はまず化粧道具の入った入れ物をテーブルの上にどさりと置いて、椅子に座っている土方の向かいに席を作る。

下地を塗ろうとする銀時に、嫌そうな顔をしているということは不本意なことらしい。

「……で?」

「…………」

「真選組クビになったの?」

「なるかっ! なったとしても転職先がここって何があった、俺に!」

「"目覚めちゃった"のかと思って」

ニマニマと笑う銀時を土方は睨みつける。


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