原作設定(補完)
□その46
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#457
作成:2019/04/03
深夜の万事屋でジタバタと小競り合う音が響く。
夜の街かぶき町の明かりが窓から差し込むだけの暗い部屋で、ハレンチな攻防が繰り広げられていた。
銀時の万年床で、組み敷こうと攻める銀時を、組み敷かれてたまるもんかと土方が防衛する。
「い、いい加減、観念してくれませんかね」
「て、てめーこそ諦めろ!」
普段から喧嘩ばかりの2人だったが、今回はいつものソレとは思惑が変わっていた。
居酒屋で偶然ばったり会い、最初は喧嘩もしていたのだが酒が入ってなんだか楽しくなり、珍しく2人で飲んだ。
そして上機嫌の銀時が、
「今日は神楽がいねーから、うちでもうちょっと飲まね?」
なんて言われ、いつもだったら『ないない、ありえねー』と思う土方も、仲良く飲めたこともあって"友達の家にお呼ばれ"みたいなシチュエーションにときめいてしまったのだ。
友達がいないから。
なのでイソイソと万事屋まで来てみたら、グイグイと飲まされ、あれやこれやという間にこの状態。
初めは『ん? 何だ?』と思っていたけれど、体のあちこちを触られたり服を脱がされそうになって察した。
貞操の危機なのだと。
体格も年齢も同じぐらいの若くて強い男同士なので、攻めるほうも防ぐほうも拮抗していた。
力では振り解けそうにないので、土方は口で抵抗を試みる。
「……と、というかな、目が覚めて相手が俺だったら後悔するぞ、やめとけっ! 女なら他にいくらでも………………いるだろ」
「悩みすぎじゃね? 失礼じゃね?」
「いるさ、きっと! 希望は捨てるな!」
「慰めてんの? 哀れんでんの?」
「だーかーらー、もう離せぇぇぇぇ」
くだらない話で気が緩んだ隙に逃げようとしたのだが、銀時の力は緩んでなくて叶わなかった。
それもそのはず、銀時のほうも必死だったのだから。
「土方くんこそ、諦めてくださぁい。銀さん、止めないから」
「だからな、相手が俺じゃ後悔……」
「しねーよ」
「あ?」
女にモテないあまり寄った勢いで手近にいた人間に手を出した、のだと思っていた土方は眉間にシワを寄せる。
その怪訝そうな顔を見て、銀時は嬉しそうににやりと笑った。
「始めからそのつもりでうちに誘ったんだから。よくある手だろ。ダメだよ、男の家に簡単に上がりこんじゃ」
「…………そ、それは、お、女の場合は、だろ……」
「その油断はダメダメ。自分に関係ないと思うのが事故の元」
「……分かった。肝に銘じておく。それじゃあ、俺はこれで……」
不埒なことをしておきながら説教をする銀時に、カチンときながらも土方はそう言って逃げようとするのだが、
「いやいやいや、逃がさないから」
やっぱり叶わなかった。
土方は舌打ちしつつまだ逃げる算段を考えようだったので、銀時のほうも正当に口説くことにする。
土方を逃げられないように押さえ込んだまま、銀時は申し訳なさそうな、寂しそうな顔をした。
「……騙して悪かった」
「……っ……」
押さえ込まれたまま、ということは銀時の顔が至極近くにあるわけで、アップでこんな情けない顔をされるとキツク当たり難い。
それでも土方は頑張って文句を言ってみたのだが、
「……わ、悪いと思ってんならさっさとどけ」
「無理」
あっさりと断られてやっぱりイラッとする。
だがその"理由"を知って、土方はもっと文句が言えなくなってしまった。
「……だって、こうでもしねーとおめーは俺の話を聞かねーだろ……」
「……なんだよ、話って……」
「"はじめからそのつもりだった"って言っただろ。あの店に土方くんが来たときから……きょ、今日こそ仲良くしようって思ったんだよ」
「……な、なか、仲良く?……」
言っている銀時も恥ずかしそうだが、聞いている土方だって恥ずかしい。
だがそのおかげで気付いたこともある。
「…………てめー……酔ってるだろ」
「酔ってません」
きっぱりと答えた銀時の目は、いつもより三割増しぐらいで死んだ魚の目のようだった。
「即答したのが怪しい。酔ってなきゃ、てめーがんなことを言い出すわけがねー」
「酔ってませんってば。景気付けに飲みすぎちゃっただけで」
「それを酔ってるって言うんだよ! だからな? 正気じゃねーんだから、ここは日を改めて……」
宥めて落ち着かせて説得しようと試みたが、酔っていても銀時の意思は固いようで、
「ここで帰したら土方くんは改めてくれないでしょー」
「……っ……」
「頼むから……言わせてよ……ずっと……言いたかったことがあるんだ……」
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