原作設定(補完)
□その46
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#454
作成:2019/03/28
真選組屯所、副長室で土方は深い溜め息をついていた。
近藤の前で溜め息をつくと「幸せが逃げちゃうぞ!」と、何かの受け売りらしいセリフを言われるのだが、自室なのでつき放題だ。
いや、別につきたくてついているわけではないのだが、最近は自然と溜め息が出る。
「年のせいじゃねーですかぃ」
と総悟にも言われたので、"そうかもしれない"と自覚してからは出来るだけ控えてはいた。
が、今日は久しぶりに渾身の溜め息になった。
仕事ではなく、実にプライベートなことで。
カレンダーをジッと見つめ、
「…………やっぱり花見は無理そうだな……」
そう呟く。
組の連中との恒例行事だが、それは別にどうでもいい。
どうせ花見という名目で飲みたいだけなのだから、実際に桜がなくても構わないはずだ。
問題は、銀時だった。
桜が見ごろなのはせいぜい1週間というところだろうが、
「一日ぐらい……いや、ちょっとの時間でもいい! 一緒に桜を見て飲むぐらいできるでしょ!! 何時になってもいいから絶対な!!」
まあ、ちょっとぐらいなら、と思って約束したものの、それが無理そうなのだ。
言って謝れば銀時は許してくれるだろう。
分かっていても罪悪感とがっかり感で連絡にしくい。
でもしないわけにもいかないな、と携帯電話を手に取ったとき、"公衆電話"という表示で着信が入った。
「? はい?」
「あっ、多串くん? 今、大丈夫?」
「よ、万事屋っ」
あまりにもタイムリーに銀時の声が聞えてきて、目の前にいるわけでもないのに土方に緊張が走る。
「無理? 忙しい?」
「だ、大丈夫だっ……ど、どうしたんだ?」
「ああ、花見のことなんだけどさー」
「!!!!」
またまたタイムリーなことを言い出されて、銀時が何か言うまえに土方は謝ってしまっていた。
「実は……」
「すまん!!!」
「……あ?」
「は、花見は無理そうだ……わ、悪い……」
言い訳もなく素直に謝ってはみたが、銀時から嫌味の一つぐらいは言われるだろう。
それを覚悟していた土方だったのに、
「まあ、そうだと思ってた」
銀時は気にした様子もなくあっさりとそう言った。
拍子抜けしたし、ホッともしたけれど、呆れられているのだろうかと不安になる土方に、銀時は用件を伝える。
「それよりも、今は?」
「……今?」
「今はちょっとぐらい暇? 時間ある?」
「……あ、ああ、ちょっとぐらいは……」
「じゃあ、すぐ行くから」
「あ!? 行くって…………切れた……」
言いたいことを言って電話を切った銀時は、本当に5分もしないうちに隊士に案内されて庭から副長室にやってきた。
手には新聞紙に包まれた満開の桜が咲いた枝と、酒を持っている。
「やっほー、多串くーん。お花見しましょー」
「な、なんだ、それは……」
「……いや、桜だけど」
「見れば分かる。なんで桜を…………まさか! どっかから盗んできたのか!?」
まずそれを疑う土方に、銀時は不満げに眉間にシワを寄せる。
「違いますぅぅぅ。つーか、このへんじゃ、桜、全然咲いてないだろうが」
このあたりの桜の見頃は一週間後で、土方も"そうか"と冷静になった。
「……じゃあ、どうしたんだ?」
「仕事でちょっと南のほうに行ってたんだけどさ……」
「!!? そんな遠くから盗んでき……」
「違うっつってんだろうが! 向こうで満開の桜の木が"春一番"の強風で倒れちまって、枝をお裾分けしてもらってきたんだよ」
「…………なんだ、そうか」
犯罪的なことじゃなくてホッとする土方に、銀時はがっかりした顔で拗ねる。
「……綺麗だから多串くんと飲もうと思って花が散らないように大事に持って帰ってきたのになぁ……」
「……え……あ……そ、その……」
「約束した花見も無理だって言うし……切り枝だけど桜見て飲みたかったのは俺だけか……」
落ち込む銀時に、土方も慌てて言った。
「俺だっててめーと…………っ……」
が、恥ずかしくて最後まで口にできずにいたら、銀時がちらりと視線を送り、
「…………じゃあ、今、飲める?」
そうお伺いされた。
仕事中だし、屯所だし、本当なら「無理だ」と言いたいところだ。
だが、土方が約束を反故にしたのを許してくれて桜を運んできてくれたのは嬉しい。
「…………す、少しだけ、だぞ」
照れくさそうにそう言う土方に、銀時はにいっと笑って桜の枝を地面にぐさっと差し、縁側に座ると酒を並べた。
ここに案内してくれた隊士に、副長室に近寄らないように頼んでおいたので、たぶん、しばらく邪魔は入らないはずだ。
お猪口に注いだ酒を飲んで、
「綺麗だねー」
「……ああ……」
花見というには物足りない桜を眺めて満足そうに笑う二人だった。
おわり
地元ではまだまだ先の花見を先取ってみました。
……まあ、私は毎年、花見なんてしないんですけど。
ふぅ、今年も花見ネタをクリアできてよかったぁ。