原作設定(補完)

□その46
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#451

作成:2019/03/17




真夜中、土方は布団に横たわったまま目を開けた。

クタクタになった心と体で就寝についたのに、眠れない。

もう何日も、何日も、眠れない夜を過ごしてきて、もう限界だった。

めったに怒らない近藤がキレる前になんとかしようと、土方は携帯電話を手に取る。



「山崎、いるか」

自室の襖を開け、廊下に出るとそう声をかけた土方に、

「はいっ」

近くの部屋で待機していた山崎が慌てて顔を出し、それから"しまった"という顔をする。

土方が落ち着いた命令口調だったのでいつものように返事をしてしまったが、山崎は割と有能で多忙の監察官であるため土方の観察をすることが仕事ではない。

なのに土方の側に控えていたということは、心配した近藤にそう頼まれていたのだろう。

土方も"もしかして"と思って声をかけたのだが、いたのなら予定通りに指示を出すだけだ。

「……今から裏戸のほうに万事屋が来るから……俺の部屋に連れてきてくれ」

そこで「どうしてこんな時間に万事屋の旦那が?」と訊ねるほど山崎もヤボではない。

土方と銀時が付き合っていることを知っている数少ない部下の一人は、ギリギリまで我慢した上司が最後に助けを求めた相手を素直に受け止めた。

「…はい」

「……誰にも見つかるなよ」

「分かりました」

"秘密"を任せてくれただけでも光栄だと思うことにして、山崎は屯所の裏口に向かう。

ほどなくして現れた銀時は、コンビニのレジ袋をガサガサさせながらいつものやる気のなさそうな顔で現れた。

「旦那」

「よう」

「俺がご案内します」

「ご苦労さん」

銀時ならわざわざ山崎に案内してもらわなくても、他の隊士に見つからずに副長室まで行くことができた。

だがせっかく土方が手配してくれたので大人しく案内されることにした。

人気のないところを歩きながら、山崎がちらりと銀時を振り返って言いにくそうに訊ねる。

「………あの……人払いしたほうがいいですか」

付き合っている二人だから"そういうこと"を想像しているようだった。

が、夜中に突然理由も言わずに呼び出されたけれど、銀時は杞憂だと笑う。

「……ぷ……いや、そういうんじゃないと思うよ」

「…そ…そうですか……」

余計な気を回しすぎたことを恥ずかしがる山崎に、

「あー、でも1つ頼むかな」

銀時はそう言って"別の余計な気"を回して頼みごとをしてやるのだった。




銀時は山崎に後を任され、一人で副長室の襖を開ける。

ろうそくの淡い灯りの中で、土方は布団の上に座ったまま銀時を見上げた。

「来ましたよ〜」

「……夜中に悪い」

「いいよ……つーか、ひでーツラだな、おい」

土方の向かいにしゃがむと、銀時は笑いながらそう言って頬に手を伸ばし、目の下のクマを親指でなでる。

その手の温かさが心地よくて、土方は自分から甘えるように頬を寄せた。

「………眠れねーんだよ」

「うん。銀さんついててやるから、横になりなさいよ」

そのために来たんだから、と銀時は土方の額を強めに小突いた。

そして土方も、そのために銀時を呼んだのだから、と素直に布団に潜る。

銀時は立ち上がり、

「この部屋、ずっと締め切ってた? 空気悪いから、ちょっと開けとくぞ」

そして庭側の障子を少し開けると、冷たい空気が流れ込んでくるのを確かめてから、土方のところへ戻ってきて畳みの上にごろりと寝転がった。

外から来たので羽織は着ているものの、まだ寒いだろうと土方は布団をめくりながら声をかけたが、

「……布団に入ってもいいぞ」

「……いやあ……さすがに"仕事で忙しくて全然会えない鬼の服長さんと付き合える我慢、忍耐の男"の銀さんでも、同じ布団で寝たら自信ないなぁ」

嬉しそうにそう言われて、土方は素直に布団を元に戻す。

来てくれたのは感謝しているけれど、確かにここでおかしな真似をされてはたまらなかったから。

澄んだ空気を吸って呼吸を整え、土方は目を閉じたが難しい顔をしていたのかもしれない。

「……まだ気にしてんの? 沖田君の"イタズラ"のこと」

そう訊ねる銀時に、土方は目を閉じたまま答えた。

「………どうしていいか分かんねー。あいつの傍にいるのが怖い」

「おかしなヤツと組んでここを爆破するって脅す……ってのは、確かにイタズラの範疇を超えてるけどさ」

ひと月ほど前、沖田のやりすぎな悪戯のことは事細かに聞いていた銀時が、呆れたようにそう言う。

しかし当時はいつもと同じように……いや、いつもより激しく怒っていただけだったのに。

ずっと眠れずにいる理由を土方はちゃんと自覚しているようだが、

「だけどさぁ、今までだって十分酷い目にあってたように見えたけど、なんで今回はそんなに怖がってんの?」

ふと疑問に思ったことを口にした銀時に、土方は目を開けて天井を見つめた。


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