原作設定(補完)
□その45
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必死になって解決方法を探してくれている仲間を信じている。
だけど自分で解決できないことがもどかしくもあるはずだ。
「それでいいのかよ」
「……いいわけねーだろ……こんな……」
銀時に問われ、土方は目を開けて胸の内を露わにした。
"こんなことで死にたくねえ"
そう言おうとしたように見えた。
だが"言霊"なんてものを信じているわけじゃないが、諦めるようなことを自分から言いたくないのだろう。
ならば銀時がやることは決まった。
いつもの"余計なお世話"とやらをしてやるだけだ。
土方がそれを望まないだろうし、"見つけてやる"と期待させることも言えないから、黙ってやろうと決めたそのとき、バタバタと廊下を走る足音が聞えてきた。
「副長!! 薬の正体が分かりました!!」
部屋に飛び込んできて興奮気味にそう叫んだのは山崎で、銀時がいることに驚く。
「だ、旦那!? どうして……」
「薬の正体って?」
「えっ!? そ、それは……」
すでに色々承知の銀時に、山崎はちらりと土方を見る。
どうやらこっちにも"口止め"がされていたようで、それももう意味がないと土方は小さく溜め息をついて言った。
「いい、言え」
「は、はい……あの、でも……その……」
土方の許可が出たにも関わらず、銀時をちらちらと見て返事を躊躇う山崎。
銀時が居ては不都合、なのだとすぐに察したが、じゃあ席を外してやろう、とは思えなかった。
「無駄。こうなったら聞くまで帰れないから」
「……は、はあ……えっと、現場に残された容器にわずかに残った薬品から、あれは辺境の星で製造されたものだと分かりました。服用するとやはり食べ物を受け付けなくなるもののようです」
「解毒剤は」
「……あります。ですが、あちこち問い合わせているんですがまだ見つからず、取り寄せるにしても辺境の星なのでいつになるか不明です」
天人が往来するようになっても宇宙は広い。
真選組、お役所仕事だからこそ目も手も届きにくい場所があるが、銀時には"届きそう"な連中に心当たりがなくもない。
何をするにしろ全ては時間の問題だ、と意気込む銀時に、シリアスを台無しにする展開が待っていた。
「でも大丈夫です! 解毒剤の入手には時間がかかりそうですが、食べられるようになる方法があったんです!」
山崎の揚々とした声に、深刻った二人が眉間にシワを寄せる。
そういうことは早く言えよ、とツッコミたくなったが、山崎が一番言いにくかったことがソレだったようだ。
「……どうすりゃいいんだ」
「……そ、それがですね……そのぅ……」
「ねー、早く言ってくんない?」
「……その……す……好きな人から口移しで、なら食べられるらしい……です……」
モジモジとそう報告した山崎に、銀時も土方もぽかんとしてしまう。
あと少しで生死にかかわるような羽目に陥っているというのに、そんなラブコメ漫画みたいなことを言われれば無理も無い。
「……てめー、ふざけてんなら……」
「ふざけてません!! 現状では一番有力な情報なんですよ!! 試す価値はあるじゃないですか!!」
必死な様子の山崎に、土方は非難の言葉は飲み込んだ。
土方のこの姿を見て、ウソや冗談を言えるヤツなんていな……沖田ぐらいだと分かっている。
やらなければ死ぬ、かもしれない。
だったら試してみるべきだし、ソレを頼むのだって死ぬのに比べたら容易いはずだ。
なのに躊躇う土方に、先に口を出したのは銀時のほうだった。
「……土方くん、俺に何か言いたいことなぁい?」
しかし、こんな状況なのにとぼけた顔でそう言われ、素直に"何か"を言えるような土方ではない。
むかっとすると同時に、素っ気無く裏腹なことを言ってしまい、
「……帰れ」
「あっそ。じゃーね」
銀時がくるりと背中を向けてしまった途端に、後悔が土方を襲った。
"見捨てられた"と思わず表情を歪めた土方だったが、銀時はそのままもう一度くるりと土方に向き直る。
そして、"哀しそうな顔を見られて慌て眉間にシワを寄せる土方"、を確認して溜め息をついた。
銀時は懐に手を入れると、可愛い包装紙の箱っぽいものを取り出す。
「…………なんだ?」
「チョコ。バレンタインデーだし、今日」
それどころじゃなかったのですっかり忘れていた。
きょとんとしている土方の前で、銀時はその包装紙をバリバリと乱暴に破り出したので甘い香りが漂ってきた。
「……なんで、チョコなんか……」
「意を決しておめーに会いに行ったら入院なんかしてんだもんよ」
「……俺に?」
「……あたりめーだろ」
「貰ったのが嬉しくて見せびらかせに来たのか?」
「1個でぇぇぇ!? どんだけモテねーんだ、俺は!!」
とぼけたことを言って現実逃避しようとする土方に、ツッコミを入れながらもそうはさせないとする銀時。
むき出しになったチョコを、
「ありがたく味わいやがれコノヤロー」
そう言って一口齧ると、そのまま土方に唇を重ねた。
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