原作設定(補完)

□その45
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いつもだったら酔っているとあのまま喧嘩腰になってしまって、険悪な雰囲気になってしまうのだが、銀時が素面だった上に、

「宵の内から梯子酒たぁ、ずいぶん気前がいいじゃねーか。パチンコでも中てたか」

なんて言う土方もちょっと穏やかで銀時はホッとする。

「そ、そうなんだよ、俺だっていつも金欠なわけじゃないからね」

「そうかよ。じゃあ、たまには俺にも驕ってくれや」

「……え……」

珍しいことを言われ、本当に懐が暖かかったら"仕方ないなぁ"という顔をすることもできたのだが、当然懐はいつものように寒いままだ。

神楽から貰ったサービス券で安酒で酔っ払うぐらいの金しか持っていない。

とても高給取りの土方が飲むような酒を驕ることなんてできそうになかった。

顔色の変わった銀時に土方は内心で笑う。

そもそも銀時がこの店に来ることから土方の仕組んだことなのだから、金が無いのだって承知の上だ。

「なんだ? 俺に驕るのはイヤだってのか」

「え、いや……」

「そうか、嫌か」

「そ、そっちの"いや"じゃなくて、その……」

「……冗談だよ」

「……あ?」

土方は高そうな酒をくいっと飲んでからまた笑って言った。

「どうせてめーのことだから金なんか前の店で使っちまってあんま残ってねーんだろ」

そして"今日のオススメ"と書かれたメニューを差し出す。

「しょーがねーからつまみぐらいは驕ってやらぁ」

「……な、なんだ、バレバレですか……だったらお言葉に甘…………」

土方の気遣いに心の中で『まじでか!きゃほぉぉぉう!』なんて思いながら、メニューを手に取った銀時は動きを止める。

メニューには飲み屋に不似合いな、チョコレートを使ったアレンジ料理ばかりが並んでいた。

"あれ? 飲み屋じゃねーの? 菓子屋だっけ?"という気持ちでキョロキョロしていた銀時は、カウンター奥の店長らしき男と目が合って、

「……なんでチョコ?」

そう呟くように訊ねると、男は声をひそめて教えてくれた。

「今日はバレンタインデーじゃないですか。だけどあからさまなチョコを渡せないシャイな人のために用意してるんですよ」

飲み屋としては変わった気の利かせ方だが店内の客を見回すと、女上司が男の部下を連れて、とか、気の強そうな女性が何も気付いてなさそうな男と一緒に飲んだりしている。

なるほど、と思いながらメニューを見直して銀時は心臓がバクバクと高鳴るのを感じた。

店長の話は土方にも聞えていたはずなのに、何も言わない。

他にも通常のメニューとか普通のオススメメニューがあるのに、このチョコメニューをわざわざ出してきた理由。

ちらりと視線を向けたら、土方はしれっとした表情で言われた。

「頼まねーのか?」

「……あ、のさ……もしかして何か知ってる?」

「……てめーんとこのチャイナがてめーのチョコを食っちまったことなんて知らねーよ」

『知ってんじゃねーかぁぁぁぁ!!!』

というツッコミの言葉は飲み込んだ。

知った上で"チョコを驕ってくれよう"としている理由なんて一つしかないのだから。

「いらねーなら別にいいぞ」

「……い、いりますぅぅぅぅ。ど、どれにしよーか迷ってるだけですぅぅぅ」

「どれでも、好きなだけ食えよ」

「す、"好きなだけ"!? ……じゃ、じゃあ、ぜ、全部?」

「へい、まいど!」

大量注文にホクホクと上機嫌で返事をするが、そのメニューのおかげで一つのカップルを誕生させていたことは知らない店長だった。


ハッピーバレンタイン!


 おわり



ただのバレンタインネタなのに、無駄に長くなってしまいました。
相変わらず初心なカップルだなぁ、もう(笑)

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