原作設定(補完)
□その45
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「ただいまヨ〜」
明るく帰ってきた神楽の声を聞いて、新八は部屋に閉じこもっている銀時に話かけた。
あれからずっと塞ぎ込んでいる銀時の相手が面倒くさくなってきたところだったので、
「あ、ほら、神楽ちゃん帰ってきましたよ。お待ちかねのチョコですよっ」
新八もほっとしながらそう言ったのだが、部屋に入ってきた神楽は手ぶらだった。
「…………か、神楽ちゃん、チョコは?」
「ないアル」
「えぇぇぇぇぇ!! ちょっ、話が違……」
動揺する新八を無視し神楽は和室の襖をばーんと開け、布団でだんご虫になってる銀時に言った。
「銀ちゃん、チョコ手に入れてきたんだけど帰ってくる途中で、寺子屋の男子たちに渡す義理チョコを女子代表で買ったのに野良犬に襲われてチョコを食べられて泣いてる女の子に会って、全部あげてしまったアル」
一気にそうスラスラと説明した神楽に対し、銀時は不満そうな顔で布団から顔を出す。
神楽が女子供にだけ優しいのを知っているので、そんな話を聞かされて拗ねて引き篭もっているわけにはいかないのだ。
「銀ちゃん、ごめんネ」
「……もういいよ……」
なんだか色々納得できないところはあるけれど、このままこの場は収まりそうだと新八はホッとする。
そして神楽はモゾモゾとポケットから紙切れを取り出し、銀時に渡した。
「お詫びと言ってはなんだけど、これ貰ったから上げるアル」
「……居酒屋の割引券?」
「帰り道で配ってたアル」
「あ、そう」
チョコを盗み食いした代わりとしては誠意の無い代物だったが、神楽にしては上出来と言えないこともない。
どうせチョコを作っても渡せる可能性なんて低かったしな、と思いながら、
「本日大サービス、か……じゃあこれで気張らしてでもしてくらぁ」
銀時はチラシを見て、ちょっとだけ寂しそうに笑ってそう言った。
神楽が小さくガッツポーズをとっていることも知らずに。
陽が沈んで冷え込んできたかぶき町を銀時がとぼとぼとした足取りで歩いていた。
引き篭もりを止めたのを喜ぶ新八と神楽の手前、飲みに出てきた銀時だが気分は優れない。
有り得ない人間に有り得ない感情を抱いて早一年。
自分の気持ちに気付かないフリをしているのが限界で、何もなかったように隣で怒ったり笑ったりするのが限界で、告白しようと思ってから一ヶ月。
おあつらえ向きなイベントがあったので、ガラにもなくそれを利用しようとしたのが間違いだったのかもしれない。
もっと早くにバーンと言ってバーンと玉砕しておけばよかったのかもしれない。
バレンタイン当日までウダウダと悩んだ挙句、材料も無くし、新八たちに心配をかけ、気を使われてここにいる。
「……情けねーな……もういっそのこと酔っ払った勢いで言っちまったほうが楽かもしんない……」
ブツブツとぼやきながら歩いて行くうちに、その気になってきた。
「そうだよ……酔っ払ってたら恥ずかしくねーかもしんないし、フラれても酔っ払いのたわ言で無かったことにできるかもしんないし、そしたらまた今までみたいに喧嘩したりできるかもしんないし」
"後ろ向きな"話を前向きに考えた銀時は、飲み屋の前に立ち扉に手をかけたときにはすっかりやる気になっていた。
『よし!! 飲んで酔っ払ったらその足で屯所に行って土方くんに告白しよう! そうしよう!!』
そう気合を入れて扉を開けたら、
「らっしゃい!」
と声をかけてくれた店主と、その声に釣られてこっちを見た土方と目が合った。
「……なんだ、てめーか」
『えええぇぇぇぇ、まだ酔っ払ってないのにぃぃぃぃ!?』
ずっと悶々と考え続けた相手が突然目の前に現れて、勢いをつけたせいもあり銀時はうろたえてしまう。
「な、なな、なんだ、ってなんだ、こ、ここ、このやろう」
「……ふっ……もう酔ってんのか、てめーは」
様子のおかしい銀時に、土方がそう言って笑った。
言葉はどもっているし顔は真っ赤だし、酔っているように見えてもおかしくない、と気付いた銀時は、
「よ、よよ、酔ってちゃ悪いですかコノヤロー」
フリをすることに決めて店の中に入ると、空いていた土方の隣に座る。
本当に酒でも飲んでいるみたいに全身が熱くて心臓がバクバクしていて、体がギクシャクしてしまう。
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