原作設定(補完)

□その45
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#443

作成:2019/02/09




その日、銀時は複雑な気持ちをいろいろ抱えて、真選組屯所を訪れた。

他に方法がなかったし、それによって生じるリスクも分かっていたけれど、この機を逃してはまたしばらく行動できそうにない。

そう思ってやってきた屯所だったが、

「土方さんならいねーですぜ」

門番には入れてもらえて玄関まで一人でやってきた銀時に、沖田が開口一番にそう言った。

「……俺、まだ何も言ってないんですけど」

「土方さんに用事だったんでしょう?」

「……な、なんで分かった」

「今日来るだろうと思ってたんでさぁ」

「……あ、そう」

ここであれこれ追求しても恥ずかしい思いをさせられるのは想像がついたので、銀時は無駄なことはしないことにした。

それよりも一番大事なことを最初から聞かされてしまっている。

「……副長さん、いねーの?」

「へい」

「お仕事? いつ戻る?」

「もしかしたら一生戻ってこねーかもしれやせん」

けろっとしたなんでもない表情の沖田だったが、不穏な単語が混じっていて銀時が顔をしかめる。

「……一生戻ってこない、ってなに?」

「言葉通りでさぁ。今頃峠をさまよっているところじゃねーですかね」

「!!?」

とんでもないことを言い出す沖田に、浮かれた気持ちが吹っ飛んだ銀時の顔色と表情が変わった。

どうやら冗談ではないらしいし、はぐらかす沖田と悠長に話をしている場合じゃなさそうだからだ。

「沖田くーん、どういうことかな」

他に誰かを探してる時間もなさそうなので、なんとしても話してもらう、というつもりで低い声で訊ねたが、沖田はやっぱりけろっとした顔で教えてくれる。

銀時の真剣さに屈したわけでも、土方が心配だからでもない。

そのほうが面白いと思っているからだろう。

「言葉通りですよ。土方さんは今、瀕死の状態で病院に入院してるんでさぁ」

「……なんで……今週はテロのニュースとか見てねーし、先週は町で見かけたけど?」

「事の次第は今週のことじゃねーんで。二週間前の出動で、油断したあの野郎が攘夷志士に怪しげな薬品を使われましてね。それ以来、一切何も口にしてねーんです」

「……メシが食えてねーってこと?」

「そうです。メシどころかマヨすら吐き出しちまうし、水を舐めるように飲むのがせいぜいでしたよ」

「……先週は出歩いてた……」

「まだ"なんとかなるだろ"って余裕があったころですかね」

そう言われてみれば、先週会ったときの土方には、悪態を吐く口調に元気が無かったような気がする

体の線が細かった気もするし、でも仕事が忙しいせいかといつものように流してしまった。

もうあの時には目に見えるほどだったのに、あれから1週間以上何も食べておらず入院しているとなると、沖田の話は大袈裟でないかもしれない。

「……なんとかなんねーの」

「してまさぁ、真選組総出で。薬の特定と、逃げられた攘夷志士の捕獲に必死でやってますよ」

沖田くんは屯所で暇そうにプラプラしてたけどね、とは言わなかった。

ウソでも本当でも土方を心配しているところなんて見せないだろうから。

「……分かった。あんがと」

「あれ、随分素直に礼を言いやしたね」

「教えてくれたんでしょ、一応。できればもっと早くに教えて欲しかったけどねー」

「すいやせん、口止めされてたんで」

ということまで"教えてくれた"沖田に、銀時は背中を向けてから手を振った。

入院先は教えてくれなかった、ということはいつもの病院なのだろう。

"万事屋として協力"する前に、土方の容態を確認しにいかなくてはならないと銀時は病院へ向かった。




病室の前で警備をしていた隊士は、銀時の顔を見てぺこりと頭を下げると中へ通してくれた。

銀時には見覚えない隊士だったけれど、何度も万事屋が真選組の窮地に立ち会って協力してくれたのを知っているのだろう。

今がその時なのだと、藁にも縋る思いで。

白い病室のベッドで土方は目を閉じて横たわっている。

計器などは何もなく自分で呼吸しているけれど、部屋の白さを反射したように白い顔をしていた。

そして想像以上にやせ細っていると分かる顔と身体。

筋肉はまだ残っているようでガリガリというわけではないのだが、それじゃなくても少なそうな脂肪がほとんどなくなったような感じだ。

銀時はベッドの横に立ち、触り心地の悪そうな頬に手を伸ばした。

その気配を察したのか、土方は目を開けて居るはずのない男を見て顔をしかめる。

「……何してんだ、てめー……」

こんな状況でもそういう顔でそんなことを言いますか、と銀時は小さく溜め息をついた。

「おめーこそ、何してんの」

「見りゃ分かる……つーか、聞いたから来たんだろ」

「……死にそうだ、つーんで、見に来た」

「……そうかよ……残念だが、もう少しかかるぞ……」

面倒くさい、という顔でそう言い土方は目を閉じる。

自分の体のことは自分で分かっているだろうし、どういうつもりでそんなことを言ったのか。


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