原作設定(補完)
□その44
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#439
作成:2019/01/30
『トシぃぃぃ、まだぁぁぁ?』
そう書かれたメールを見て、土方は携帯を閉じながら溜め息をついた。
今日は遅れに遅れた新年会が屯所の広間で行われている。
離れた土方の部屋にも騒いでいる声が聞えてきていて、盛り上がっているのが分かっていたのでそろそろ限界だな、とは思っていた。
「……出かける前に書類を片付けておきたかったが……仕方ねーか……」
新年会に顔を出し、頃合を見計らってこっそり外出するつもりだった。
こっそりしなくてはならない理由は、沖田とか沖田とか沖田とか、だ。
今まで非番の日にも外出しないで仕事したり、原田あたりと映画を見に行くぐらいしかしていなかった土方が、急に外出先も告げずに出かけるようになったことを勘ぐられている。
今日なら沖田も酔っているだろうし、尾行を警戒しなくても出かけられるはずだ。
「……まあ急ぎの書類じゃねーし……明日でいいか……」
そう呟いて土方は財布と羽織を持って部屋を出る。
荷物は玄関のあたりにでも隠しておこうと廊下を曲がったら、
「うぃーっす」
聞き覚えのあるやる気のない声でそう挨拶する全身白っぽい男とすれ違う。
「……は?……」
聞き間違い、見間違いかと土方が振り返ると、男は厠に入ったところで、呆然としたまま出て来るのを待ってしまった。
そしてすっきりした顔で出てきたのは間違いなく銀時で、土方は胸倉
を掴んで詰め寄る。
「何してんだコラァ」
こうなることが分かっていた銀時はそ知らぬ顔で、
「新年会にお呼ばれしたんですぅぅ」
そう言って酒の匂いをぷんぷんさせていて、来たばかり、というわけではなさそうだ。
「……じゃあ、ずっとここに居やがったのか?」
「うん。乾杯の挨拶から?」
どうやら最初かららしい。
土方が必死に仕事をしていたというのに、酒を飲んで楽しんでいたという銀時。
『誰のためだと思ってんだ。残務を気にしてると機嫌が悪くなるてめーのためだろうが!』
そう、土方が出かけて会うはずだったのは銀時だった。
"それだけのこと"が言えなかったのは、二人の関係がやましいものだったから。
付き合ってるなんて気恥ずかしくて言えず、土方はかなり頑張ってやりくりしているしているというのに。
胸倉を掴んだ手に力を込め、険しい顔で声を潜めて言ってやる。
「後で会うことになってんだろーが」
銀時がここにいるのでは土方が出かける意味がなくなってしまう。
「だからだよ」
「あ?」
不満そうな土方に、銀時はふっと笑って耳元で囁くように顔を寄せ、
「酔っ払わないでね」
そう言って軽い足取りで宴会場へ戻って行った。
耳に残るほんのり酒臭い暖かい息の感覚に、土方は赤くなった顔をしかめる。
"忘年会にちょっと顔を出してから抜け出していく"と連絡した土方が、ちゃんと抜け出せるように迎えに来てくれたらしい。
もちろん、タダ酒が飲めてタダ飯が食えるというオプション付きだから、だというのも分かっているけれど、そういう優しいところを不意に見せられると、
『……ムラムラするじゃねーかコラァ……』
久しぶりのデートを前に抑えていた欲求を思い出してしまう土方だった。
上手いこと立ち回って早々に忘年会を抜け出さなくては、と願うがそう上手くいくはずもない。
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