原作設定(補完)
□その44
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「……ん……」
土方が目を覚ますと、薄暗く埃っぽい部屋が目に映る。
見覚えのない場所であるのはすぐに分かったが、どうしてここにいるのかが分からない。
体はだるし頭ははっきりしないし、ぼんやりする土方に、
「……目ぇ覚めたか……」
そう声がかけられゆっくりと体を起こす。
背中を向けているけれど、分かりやすい銀髪の男を見て土方は顔をしかめた。
土方が起きたのと同時に、男の緊迫した気配が消えたのが分かったからだ。
この場所も状況も覚えていないということは、自分たちは何者かに拉致られてここへ閉じ込められているということ。
何が起こってもいいように、先に目が覚めた銀時に守られていた。
ムカつくがそのことで喧嘩をしている場合ではないので、土方はぐっと我慢して改めて辺りを見回す。
「……何か覚えてるか?」
「いんや。現場にいたはずなのに気付いたらもうこの部屋だった」
「……俺もだ。携帯は?」
「ねーよ。刀も手帳もねー。あ、でも手錠はあったな」
銀時がそう言うなら自分もそうだろうと土方は確認するまでもなく溜め息をつく。
隊服姿の真選組副長を二人揃って拉致するなんて、"人違いでした"なんてオチは期待できそうにない。
となれば相手は捕縛するはずだった連中。
突入されてとっさに副長拉致を思いついたというのなら見上げた行動力だが、おそらく計画されてのことだろうし、となると真選組の突入自体が仕組まれたことなのかもしれない。
土方は再度溜め息をついた。
近藤たちは心配しているだろうし、沖田にはあざ笑われているだろう。
無事に帰ってやらないとなにを言われるか分からない、と土方はこんな状況ながら気合を入れなおすのだった。
そんな土方の様子に銀時は小さく笑う。
拉致られるときに薬か何か使われていたようだが、自分が大丈夫なんだから土方も同じだろうと思ってはいても目を覚まさないので心配していた。
気合を入れなおす元気があるなら大丈夫だろう。
なので銀時も改めて今の状況と今後の展開を考える。
天井の高いコンクリートのこの場所は、部屋というより倉庫的なものだろう。
壁に沿ってぐるっと足場があり窓があり、1階には鉄の大きな扉があるが逃げることはできなそうだった。
なにせ二人の足には細いけれどちょっとやそっとの力じゃ切れない鎖が繋がれている。
ガチャガチャと音を立てて土方もソレを確認しているようで、
「……刀があれば足を切って逃げられるのに……」
なんて物騒なことを呟いている。
「おいおい、それはワンパークでもやろうとしてたからね。中の人が一緒だからってマネはいけませんよ」
「……何の話だ。俺はマガジン派だ。ジャンプネタはやめろ」
銀時のふざけた話を聞いているとホッとするようでイラッとするようで、土方は逆に落ち着かなくなる。
一見緊張感のないように見える二人に、頭上から聞きなれない声がかけらた。
「真選組の副長殿は勇ましいなぁ。そんなことをしなくても出してやるよ」
見上げると、足場に数名の男たちが立っていた。
男たちの顔には見覚えがある。
やはりこれは捕縛しようとしていた攘夷志士たちの仕業で、そしてそのリーダーと幹部たちを捕縛し損ねたということ。
ハンディタイプのカメラを二人に向けて撮影している者もいて、拉致の証拠として真選組に送る気なのか、真選組の失態をマスコミにでも流すつもりなのか。
小さく舌打ちした土方だったが、ソレは思いもよらぬものを撮影しようとしていた。
こういうとき、相手の喧嘩に乗っかるのは銀時の役目にいつのまにかなっていて、土方より先に憎たらしい口を開く。
「それじゃあ、とっとと出してくれませんかね。僕たち忙しいんで、君たちと遊んでる暇ないんで」
「そう言わずせっかく招待したんだ、ちょっとは俺たちを楽しませてくれよ」
「楽しませる? なんですか、二人で漫才でもやれってーの? 俺はともかく土方くんはお笑いセンスゼロなんですけど、面白いことなんて何も言えないんですけど、コンビを組んで舞台に立つなんてムリなんですけど」
喧嘩を買いながらも、さりげなく土方をバカにすることを忘れない銀時に腹が立ってもぐっと我慢した。
今は銀時に任せて、仕返しは無事に帰ってからすればいい。
だが男は銀時のおふざけは無視してにやりと笑って言った。
「いやいや、副長殿たちで最高の見世物を演じてもらうぜ。特にあんたに期待してるよ、坂田副長殿」
「あ?」
「あんた、そっちの土方副長殿にずいぶん"ご執心"だそうじゃねーか」
それがどういう意味なのか、にやにやと笑っている男たちを見てすぐに理解できた。
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