原作設定(補完)

□その44
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#436

作成:2019/01/19




完成したばかりの書類を持って土方十四郎は庭側の通路を歩いていた。

近藤の部屋まで行くつもりなのだが、こもりっきりだったので外の空気を吸いたくなったのだ。

残りの仕事がもし早く片付いたら、ご無沙汰しているもふもふでも見に行こうかと考えてみる。

喧嘩ばかりで憎たらしいもふもふを、こんなふうに思い出すことになるなんて自分でも信じられない。

だけどそんな自分も、そんな関係も悪いもんじゃないな、なんて浮かれた考えは、土方の向かう先から聞えてきた話で吹き飛んだ。

廊下の角を曲がった先で隊士たちが話をしている。

「お、なんだ、しょんぼりして。サボってんの見つかったら副長に切腹させられんぞ」

「……あー……」

「どうした?」

「……これ」

「雑誌?」

「庭の掃除してたら見つけたんだけどさ……その記事……」

「あ? なになに……"体位で分かる恋人の気持ち"……はあ?」

「彼女がさー、バックでしかさせてくれねーんだよ。気持ち良いからそれでもいいかと思ってたんだけどさー、"顔を見たくないのかも。本命が居る可能性あり(笑)"とか書いてあってさー……」

「……ふーーーーーーーん……彼女とか作るからじゃね? 俺たちみてーに決まった休みもとれずらい仕事してると上手くいかないらしーじゃん?」

「……確かにいつも怒られてんだけどさー」

「やっぱり女は吉原がいいぞ。優しいし上手いし面倒くさくないし」

「だけどさー」

ウジウジとボヤく隊士に、もう一人の隊士がさらに吉原を勧めようとしたとき、全身が凍りつく声が聞えてきた。

「てめーら、暇なのか? 仕事がねーってんなら俺が稽古でもつけてやろーか?」

「ふ、ふふ、副長!!」

「いいえ!! 大丈夫です!! 仕事ならあります!!」

「……だったらすぐ行け」

「はいぃぃぃぃ!!!!」

落ち込みも吹っ飛ぶぐらいしゃっきりとして、雑誌を廊下に置いたまま2人はぴゅーっと立ち去る。

土方はその雑誌を拾い上げて小さく溜め息をついた。

二人の会話……というか、落ち込んでいた男の話は土方の胸に突き刺さった。

『そういえばヤロウもバ……う、後ろからしかやらねーな……お、男同士だし……そのほうがやりやすいのかと思ってたけど…………顔が見たくなかったのかな……もしかして他に相手が……』

自分と重ねてそんなことを考えてしまった。

一瞬だけ。

『いやいやいや。だったら俺と会ってるときあんなに嬉しそうな顔できねーだろ。二股とか、そんなに器用な男じゃねーだろ』

そう思える程度には信用していた。

土方は雑誌をゴミ箱に放り投げ、近藤の部屋に向かう。

近藤の部屋に入るなり聞えてきた声は沖田のもので、

「万事屋の旦那はああみえて器用なんでさぁ」

"二股かけるほど器用じゃない"と思ったばかりだっただけに、そう言われて土方はギクリとする。

相手が沖田だけに心の中を読まれたんじゃないかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

近藤が沖田の隊服の袖の裾を手に取ってじっと見て、

「どれどれ……ホントだ、縫い目が分からないな」

感心したようにそう言った。

「…………なにが?」

「おお、トシ。それがな、総悟が、団子屋で会った万事屋に、隊服の
袖がほつれてるって言って直して貰ったみてーでな」

ああ、そういう"器用"か。

銀時の手先が器用なことを土方は知っているのでホッとしたのに、沖田が余計な火種を投じてくれる。

「だけど男が裁縫道具持ち歩いたりしやすかね」

「んー、そうだなぁ、何かに使ったやつがたまたま懐に入ってたんじゃねーか?」

「そんなことしたらグッサリ刺さりまさぁ。それに、こうなんかいろいろチマチマ入った可愛いヤツでしたぜぃ」

「ああ、あるな、ソーイングセットとかいう女が持つヤツ」

「ああ、じゃあ、女の忘れモンとかだったじゃねーですかね」

銀時がそんなもの持っているのを見たことがない。

となれば、やっぱり総悟に会ったときにたまたま持っていただけで、銀時の周りにそんなものを持ちそうな女が居ないとなると土方の知らない誰かがいるのか。


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