原作設定(補完)
□その44
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#432
作成:2019/01/04
玄関の呼び鈴で扉を開けた銀時は動けなくなっていた。
目の前にいるのは私服姿の土方で、年末どころかクリスマスをさらに越えた先から会えずにいたツレナイ恋人だ。
いつもだったら、無いはずの尻尾を振って熱烈歓迎してしまい、
「そんなに甘やかすから付け上がるアル」
「神楽ちゃん、昼ドラなんかで変な知識つけないでよ」
「違うアル。マリッペから借りた少女漫画で見たネ。今時の少女マンガはドロドロもギスギスもしてるアル」
なんて会話を二人にされてしまうぐらいの甘やかしっぷり。
今日だって土方の顔を見た瞬間はそうしそうになったが、自らの状況を鑑みたら出来なくなった。
「……ひ、土方くん……」
「あけましておめでとう」
「お、おめでとう。ど、どうしたの。今日、非番って聞いてませんけど……」
「本当に休めるかどうか分からなかったからな。都合悪ぃか?」
「えっ……そ、そうね、神楽が……」
「いねーんだろ?」
「へ?」
「ガキ共連れてあの女が旅行に行っちまったって、近藤さんがしょぼくれてたからな」
「そ、そそ、そうなんだよ、神楽と新八は居ないんだけどねー……」
ずっと動揺しまくっている銀時に、土方はようやく何かを察して眉間にシワを寄せた。
隠し事だらけの犯罪者を相手にしてるから"ウソ"を見破るのは得意なのだが、銀時に限って、そう思っていたせいで気付くのが遅れてしまった。
「……じゃあ、他に誰か居るってのか?」
「えええ!? い、居ないよっ! 居るわけないじゃん!」
「……んでそんなに焦ってんだコラァ」
「あ、焦ってないよ? やだな、土方くんの気のせいですよコノヤロー」
本人は必死に誤魔化しているつもりらしいが、目はキョドって汗もかいて声は上ずっている。
疑いが確信に変われば、土方には心当たりが一つあった。
「……てめー、まさか……」
「な、なな、なにっ」
「オレは来ねーしガキ共はいねーからって……」
「……っ……」
「この間のピンクチラシに電話して、女、呼んでんじゃねーだろーなぁぁ!!!」
怒れる土方に対し、銀時はきょとんとした後、へらっと笑って言い訳する。
"この間"とは言ってもひと月以上前、和室のゴミ箱に捨ててあった大量のチラシを土方に発見されたことがあったのだ。
「ないないない。この間のアレは、酔っ払って公衆電話に貼ってあったの全部剥がして持ってきちゃっただけで、第一そんな金ねーの知ってるくせにぃ」
「ないとは限らねーだろーが! たまに犯罪スレスレの依頼受けてがっぽり貰ったり、パチンコで勝ったりしてんの知らねーとでも思ってんのか!!」
「ごくごく稀にだし、だからって風俗に使うほどは儲けてな……」
勘違いしている土方が可愛くて銀時がヘラヘラするたびに、土方のほうはイライラするわけで。
「だったら中に入ってもかまわねーだろ! じゃまするぜ!!」
玄関先から動かない銀時の体をぐいっと横に押し、土方はズカズカと上がりこむ。
「…………えっ!! ちょ、ちょっと、ま、待った……」
呆気にとられた銀時が慌てて追いかけても、もう手遅れだった。
「……あ?……」
奥の部屋の扉を開けて立ち尽くす土方に、銀時は後ろから必死に言い訳する。
「あ、あのね、これはね、そのね……」
土方の視界に広がるのは、新八と神楽が出かけてから3日間、散らかしに散らかしまくった薄汚れた部屋だった。
テレビの前にソファを置き、座る場所以外はジャンプだの菓子だのが散らばり、ゴミすらもあちこちに放置。
襖が開けっ放しなので見える和室も、敷きっぱなしの布団の回りは同じように散らかっている。
キレイに掃除された万事屋にしか来たことのない土方にはさぞかし衝撃的な光景だろう。
……と思ったのだが、土方は眉間にシワを寄せたまま振り返り、
「どこだ」
「…………へ?」
「どこに居るんだ? 慌てて隠れたのか? 女にそんなマネさせるなんててめーは何様だ」
怒った顔で考えすぎなことを言われ、銀時はまたぽかんとしてしまう。
銀時が隠したがったことがなんなのか、気付いて貰えなかったので説明するしかなくなった。
「……いや、あのね……さっきも言ったけど買ってないから女はいないからね……」
「じゃあ何を誤魔化してたんだ!」
「……見て分かんない?」
「あ?」
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