原作設定(補完)
□その43
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#425
作成:2018/12/07
「やっぱりクリスマスだと混んでますね。酔っ払いばっかりだから……危ないなぁ」
運転席の隊士が愚痴と独り言が混じったように話すのを、土方はぼんやりと聞いていた。
夜中でもいつでも騒がしいかぶき町は、クリスマスイブということもありよけいに混雑していた。
”サンタクロースが良い子にプレゼントを配る”という目的からいえば、どちらかというと子供向けのイベントのような気もするのだが、かぶき町に集まっているのは酔っぱらった大人たちだ。
真選組のパトカーに目もくれず、往来を横切ったり集まって騒いだりしているものだから、危なくてスピードも出せない。
こうなると分かっていたのにわざわざパトカーでかぶき町に侵入したのは、”すまいる”のクリスマスイベントに参加したものの、高い酒をがっつり飲まされて早々にリタイアさせられた近藤を迎えにから。
こっちもこうなるだろうと分かっていたので、土方は屯所内のプチ宴会にも参加しなかった。
バックミラーごしに見える、泥酔中の半裸ゴリラの隣で土方が浮かない顔をしているので、運転中の隊士も口を閉ざす。
町中がお祭り騒ぎなのに素面でいる、よりももっと土方の気を滅入らせていることがあった。
パトカーはゆっくりとその”元凶”へと近づいていく。
土方は明かりの点いている万事屋をじっと見つめる。
”稼ぎ時だ”とお妙が仕事を優先させたので、今年は万事屋でパーティーなのだと銀時が言っていた。
もちろん土方も誘われたけれど、結局蚊帳の外で万事屋を見上げる羽目になった。
だが原因はソレじゃない。
行けないことを報告したときに喧嘩になった。
「あ、そう。それじゃあ今年の行事事は全滅ってわけですね。どうせ年末年始もダメなんだろうし」
電話の向こうでそう言った銀時の声は明らかに不機嫌で、少しは悪いと思っている土方の胸を突き刺す。
一年間の恋人同士っぽい行事ごと、万事屋の楽しみの行事ごと、すべて誘われたけれどすべて行けずに終わった。
いつもなら拗ねながらも銀時は許してくれたのだが、さすがに堪忍袋の緒が切れたのだろう。
「俺たちさぁ、好きな食いもんも、読んでる漫画も、休みも合わないじゃん? これだけ合わないんだったら付き合ってる意味もねーかもな」
そう言われたあとから、電話もなければ町でばったり会うこともなくなった。
面倒くさい。
付き合うのを止めたらもう余計なことも考えなくて済む。
初めはそう思ったのに、日に日に焦燥感が募っていった。
忙しい仕事の合間にほんのちょっとでも銀時に会って、団子食って茶を飲んで下らない話をする。
それだけで満足していたこと。
満足してしまっていたから行事ごとをないがしろにしていたこと。
そして、そんなことに今さら気付いても遅いこと。
すぐ目の前に万事屋があって銀時に会えるのに、土方は車から降りることができなかった。
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