原作設定(補完)
□その43
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#427
作成:2018/12/16
真選組屯所。
昼飯のために食堂に向かいながら、途中で山崎から受け取った書類に目を通していた土方は、前から歩いてくる人影に気付くのが遅れた。
当然正面衝突してしまい、相手が隊士だったら怒鳴ることもできたのだが、
「きゃっ! す、すみませんっ!」
若い女の声が謝ってくるので『あ?』と思いながら視線を向ける。
真選組の食堂で長年働いてくれるおばちゃんが家事都合で来れなくなったため、その娘が代理で来てくれていたのだ。
屯所の中で若い女を見ることなんてないので隊士たちが浮ついて困るが、若いのに素朴で働き者で可愛い良い子らしい。
「いや、こっちこそ見てなくて悪ぃ」
土方はそう言って落とした書類を拾おうとしたら、同じく床の上にカラフルな物が転がっていた。
娘が慌てて拾っているカラフルで丸いものが何であるか、そういうモノに詳しくない土方にも分かる。
「毛糸?」
「あ、はい、そうです」
「ずいぶんあるな。自分で何か作るのか?」
世間話程度に話を振ったら、娘は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言った。
「はい。クリスマスに、彼にマフラーでも編んであげようかと思って」
娘のその言葉に、食堂で様子を伺っていた隊士たちがショックを受けているのが分かったが、土方にはどうでもいい話だ。
「へえ、すげーな」
「ええっ、全然すごくないですっ。マフラーなんて真っ直ぐ編むだけだから簡単なんですっ」
マフラーの構造を考えるとあながち謙遜でもないのかな、と思う。
拾ってやった毛糸は柔らかく手触りの良い感触がした。
全部拾い集めると娘は再度礼と謝罪を言って、今日はもう仕事が終わりらしく帰って行った。
土方が食堂に入ると、隊士の半数近くががっくりと項垂れていたがやっぱりそれもうどうでもいい。
だが配膳された昼食にぶりゅぶりゅとマヨネーズをかけながら、土方はふと思った。
『手編みのマフラーね……漫画ではド定番だけど、今時の若いやつらには重たいんじゃねねーのか』
漫画とドラマの再放送と隊士たちの会話からそんなことを考えたが、ふと銀時のことが頭に浮かぶ。
『……あいつは……喜びそうだな……』
そういう可愛いモノと縁がなさそうな男なので、
「マフラー? 手編み? まじでか! いいの? ほんとに!?」
そう言って喜ぶ姿が目に浮かんで、土方にもふっと笑みが漏れた。
想像ではあるが、あんな顔をされると思えばマフラーも編んでやりたくなるのかもしれない。
『……簡単だって言ってたな……』
と考え、そう考えてしまった自分に我に返り、慌てて首を振る。
『いやいやいや、ないないない。何考えてんだ、アホか』
手編みのマフラーなんて女に編んで貰うから嬉しいんであり、いくら付き合っているからといって男の手編みなんて喜ぶはずがない。
例え、一度ねだられてねだられてしつこくねだられて、たいして美味しくもない味噌汁を作ってやったら最後の一滴まで喜んで飲んでいた銀時だとしても。
『……あんときみてーに喜ぶかな…………そういや、あいつのお気に入りのマフラー、ストーブで少し焦がしたとか言ってたけど……』
さっき拾ってやった毛糸の中に、キレイな赤い色の毛糸があったことを思い出す。
あの毛糸で作ったマフラーを巻いて嬉しそうな銀時。
『………………だ、だからねーって言ってんだろうが!!! そんな暇ねーし、買ったほうが早いしきれいだろうが!!! アホか!!!』
恥ずかしいことを考える自分に激しくツッコミながらも、そのことが頭から離れない土方だった。
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