原作設定(補完)

□その43
2ページ/19ページ

#422

作成:2018/12/03




昼過ぎ、副長室から出てきた土方は隊服を着崩して気だるそうな顔をしていた。

手に握られている書類の束は、ほぼ徹夜で処理した自分の分を終わらせて早朝に局長室に行ったら、やはり徹夜で頑張ったようなのにちっとも終わらなくて半泣きの近藤の分だ。

「あ、ありがとうな、トシぃぃ。礼に今度仕事変わってやるから!!」

近藤の仕事を手伝うのはいつものことだし、仕事を変わってくれるどころか余計な仕事を増やされるのもいつものことだ。

だが近藤は言うときはいつでも本気で本当に感謝しているから、土方はついつい手伝ってしまう。

「……んなことより、俺はちょっと部屋で休むから、あんたも少し寝ろよ」

「えっ!? ……わ、分かった!」

近藤はそう言いながらもチラリと時計を見たので、きっとお妙の様子を見に行きたいんだろうと分かったが、土方は何も言わなかった。

懲りないけれど"そうしたい気持ち"は分かるから。

土方のほうは思うままにそう行動できないので、とりえあず部屋で休む前に食堂で何か腹に入れることにした。

しかし食事の時間でもないのに食堂がガヤガヤと騒がしい。

なんだ、と思いながら覗いてみると、山崎と数名の隊士たちが粉まみれでバターと甘い匂いをさせてなにやらやっている。

その中心にいるのが、なぜかのまさかの新八だった。

「…………何してんだ、てめーら」

「ふ、副長!」

「こんにちは、土方さん」

「おう…………で、なんだこりゃ」

テーブルの上の鉄板には、いろんな形をした菓子が並べられている。

「クッキーです。作り方を教えてくれって言われたので」

新八のセリフと、目の前のむさくるしい男連中の風景が合ってなくて土方が眉間にシワを寄せると、山崎が慌てて補足してきた。

「とっつぁんの命令で、真選組のイメージアップを狙ってクリスマスに手作りクッキーを配れ、って言われたじゃないですか! なので新八君に教えてもらってるんですよ!」

命令は知っている。

娘の栗子の提案……というか冗談まじりの話を鵜呑みにして、松平がバカなことを言い出したのだ。

女はどうして真選組と"可愛らしいもの"を組み合わせようとするのか。

「……あれは、作ったという体で業者に頼むはずだったんじゃ……」

「それが、沖田隊長が"そんな嘘をついてドヤ顔で菓子なんて配れない"と言い出しまして……」

「…………言いだしっぺの総悟はどうした……なんて聞くまでもねーな……」

無責任に押し付けて逃げたのだろう。

「……で、なんでソイツ……万事屋に頼んだ」

「や、だって……俺たちにクッキーの作り方を教えてくれ、とは……女性には頼みにくくて……」

さらにむさいツラを並べて作っている姿というのも情けなくもある。

それで万事屋に白羽の矢を当てたのは分かるとして、土方はチラリと視線だけで"居るはず"の姿を探すが見つからない。

察した新八が教えてくれた。

「僕一人です」

「……珍しいな」

「銀さんと神楽ちゃんは別の仕事があって。酷いんですよ、どこかの農家の収穫の手伝いとかで、賄いが食べ放題らしいんです。でも2人で良いらしくて、出勤したら伝言だけ残して二人で行っちゃったんですよ」

2人の憎たらしい笑みが目に浮かぶようだった。

「それで留守番してたら山崎さんから電話があって、クッキーなら作れるので僕だけで来ました。きっと銀さんは悔しがるだろうから、ザマーミロです」

それも目に浮かぶ。

土方はふっと笑い、

「そうか。じゃあ、すまねーが、ソレ、頼むな」

そう言って、ここは山崎たちに任せて部屋に戻ることにした。

するとその後を新八が追いかけてくる。

「あのっ、土方さんっ」

「あ? どうした?」

「えっと、その……ク、クリスマスと言えばー、土方さんは何か予定がありますかっ!?」

「……今作ってる菓子を配ることになるだろうな」

「あ! そ、そうですよねっ! えっと、じゃ、じゃあ……夜、は、空いてますか?」

思わぬところからクリスマスの予定を確認されたが、それが"誰のため"かは明白だ。

さっきは"ザマーミロ"なんて言ってたくせに。

「……どうかはまだ分からねーな」

たぶん無理だとは思っていたが、新八を気遣ってはっきりと断らなかっただけなのに、新八はぱっと嬉しそうな顔をする。

「来れたら、でかまわないです! きっと喜びます!」

その喜んだ顔が見たくてあんなダメ男のためにいろいろしてやろうと思う新八を、喜ばせてやりたいなと土方も考えてしまう。

「……おう、行けたら、な」

「はい! お願いします!」

そして台所に戻って行く新八を見送ってから、土方はさっきの近藤の言葉を思い出していた。

クリスマスには"すまいる"で客寄せパーティーがあると言っていたが諦めてもらおう、と。

そしたら新八の希望を叶える確率が上がるし、新八が見たいものを一緒に見ることができる。

そんなことを考えると、クッキー配りも少し楽しみな土方だった。


 おわり



新八とのクリスマスネタ。
思っていたより長くなっちゃったな。
敢えて銀時と付き合ってることを全然明記しないでみました。

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ