原作設定(補完)

□その43
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#421

作成:2018/12/02




「あれ、まだ居るなぁ」

「あ?」

運転席の山崎がそう呟いたので、助手席でうっすら眠っていた土方は目を開ける。

山崎の視線の先を見ると信号待ちで停車していたパトカーの窓の向こうに、かぶき町近くの商店街が見えた。

そしてケーキ屋の窓に貼り付いている見慣れたチャイナ服。

「副長を迎えに行くときにも居たんですよ。欲しいけど金がない、とかですかね」

万年金欠の万事屋にはよくあることだ。

今までだったら「知るか」と無視するのだが、今はもうそれができない土方だった。

歩行者用の信号が点滅しはじめていたが、土方はシートベルトを外して車を降りる。

「先帰ってろ」

「え? ちょっ、副長?」

突然で慌てた山崎だったが、信号が変わってしまったので後ろの車から怒られる前に車を発車させた。

一人残った土方は、食い入るように店内を見ている神楽に声をかける。

「よう」

「? あ、トッシー! 久しぶりアルな!」

土方の顔を見て神楽がそう笑ってくれるようになるなんて、"銀時と付き合ってる"効果だった。

懐かない動物に懐かれた気分で土方のほうも自然に笑みになる。

「欲しいのか? 買ってやるぞ」

もちろん神楽のためだけではなく、ついでに銀時の機嫌もとっておこうという考えだ。

仕事が忙しくてもう3週間ほど会ってないので拗ねている頃だろう。
だが神楽の目的は少し違っていた。

「まじでか! でも私が欲しいのはこっちネ」

そう言って指差したのは店内ではなく、ガラス窓に貼られたチラシだった。

「ん? ……クリスマスケーキ、か」

クリスマス用にデコレーションされたいろんな種類のホールケーキが並んでいる。

クリスマスはまだまだ先なので、当然予約だけで実際に受け取れるのはクリスマス近くになってからだ。

「去年はちーっちゃいケーキしかなかったネ。今年こそはって思ったけど……意外と高いアル……」

値段を見てやっぱり無理だとガッカリしたが、諦めきれずにチラシを見ていた、というところか。

給料もロクに貰えていないためにケーキも買えない神楽を不憫に思いながらも、万事屋の収入と神楽の食費を考えると銀時を説教しても効果はないだろう。

なので前言を遂行するしかない。

「分かった。俺が買ってやるから好きなだけ予約しろ」

「!! トッシィィィ!!」

神楽はぱぁぁぁっと嬉しそうな顔をして本当に遠慮なく、店員もぎょっとするほどの種類を予約した。

思っていた以上で少々高くついたが、

「トッシー、本当にありがとうアル! 今年はとっても良いクリスマスになるネ!」

こんなに喜んで貰えるなら悪い気分じゃない土方だった。




「……多串くん、神楽にちょっと甘くね? 俺にはあんまり買ってくんないくせにぃ」

数日後、ようやくの非番に会えた銀時は拗ねるようにそう言う。

「てめーの糖尿病が悪化しないように協力してるだけだ」

「血糖値高いだけだから、まだ糖尿病じゃないからっ」

「それに当日はガキ共になんもしてやれねーだろうからな、プレゼントの変わりだ」

土方が少しだけ寂しそうに言うと、銀時は何か思い出したようだ。

「あ、そうそう。神楽から伝言」

「あ?」

「クリスマスケーキがいっぱいあるから多串くんもぜーーーったいに来るように、って」

にいっと笑う銀時に、神楽が始めからそのつもりでケーキをたくさん頼んだのだと気付いた。

クリスマスの家族団らんに土方も入れてくれる、それはちょっと気恥ずかしく、嬉しいものだ。

「……分かった。なんとかしてみる」

「………………多串くん、やっぱり神楽に甘すぎ……」

自分とはなかなか約束してくれないのに、とやっぱり拗ねる銀時だった。


 おわり



神楽とのクリスマスネタ。
土方も懐いてくれる子供には甘い、という話。

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