原作設定(補完)

□その42
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「……お前……う……牛は、好きか?」

思いがけないことを問われて銀時は一瞬ぽかんとしてしまった。

が、すぐに茶化すことはせず、土方が話やすいよいうに返事をする。

「……うちの食卓にはそんな高いもんは出ないが、奢ってくれるなら霜降りが食いたい」

思ったとおりに答えたのだが、それは土方の期待する答えじゃなかったようだ。

「……牛肉じゃなく……牛のほうだ」

「…牛? 生きてるほう?」

「…そうだ…」

「……好きかどうか考えたことないしなぁ」

「た、例えば……家で飼ったり、とか」

「……雌? 牛乳出る?」

「お、雄だから出ねー」

「…じゃあ、要らない」

一般家庭であれば当然誰もがそう答えるはずだろうに、土方は急に声を荒げた。

「なんでだよ!! 定春が飼えるんだったら、牛の一頭や二頭飼えるだろうが!!」

思わず力が入ってしまった土方だったが、眉間に皺を寄せている銀時に気付いて大人しくなる。

「……もしかして……」

そして何かを察したらしい銀時に、”もうバレたのか!?”と体を強張らせたが、そこまでは察しが良くなかったようだ。

キョロキョロと部屋の中を見回した後、

「”捨て牛”を拾って隠れて飼ってるんじゃ!? 近藤に”元の場所に戻してきなさい!”って怒られるから引きこもってんの!?」

そう言われ、土方もついついいつものようにツッコミを入れてしまった。

「犬猫を拾ってきたガキか、俺は!!」

「じゃあ何ですか。牛がどうしたんですか」

閃きを却下されて、銀時が不満そうに土方を見る。

銀時としてはちゃんと真面目に考えてくれたのかもしれないが、土方は諦めモードになってしまった。

突然言われても理解してもらえない、というがっかりした顔でそっぽを向く。

「……もういい……帰ってくれ……」

「あ? ちょっ、何? なんでそうなんの?」

「てめーに相談したってどうなるもんでもねーからだ」

「聞いてみなくちゃ分からないだろ」

「いいって言ってんだろ」

拒絶しながらも土方の表情が辛そうで悲しそうで、銀時は逃げようとする土方を引きとめた。

だが土方は布団にくるまっているので引きとめるには当然布団を掴まなくてはならない。

ぐっと掴んだら、土方の手が緩んでいたのか布団はずるりと下に落ち、ようやく土方の全身が銀時の前に現れた。

「!!!」

銀時の視線は驚愕した土方の顔と、土方の頭に生えた牛のような立派な角を見定める。

人間にはあり得ないものが生えているのに、さすが銀時は主人公として数々の”あり得ないもの”を見慣れていた。

しげしげと角を見つめながら、動けずにいる土方に近づいて、

「多串くん、鬼の副長でもこの角は違くなくね?」

そう言いながら角をぐいっと下に引っ張ってみる。

カチューシャのように外れるかと思ったのにダメで、『あれ?』と思ってさらに引っ張ってみたら、へんな恰好をしていた土方に殴られた。

「痛ぇだろうがコラァ!!!」

どうやら角と一緒に土方の頭も引っ張られていたようで、そう言われて銀時もようやく気が付く。

「それ……本物?」

気付かれてしまったのなら土方も諦めるしかない。

「……そ、そうだ」

「何それ、やだそれ、どうしちゃったのそれ」

あり得ないことに慣れている銀時でもさすがに動揺しているので、土方は素直に白状した。

「偵察先で牛になる茶を吸い込んじまった」

「……角が生える茶?」

”牛の角が生える”ぐらいじゃここまで取り乱すこともなかっただろう。

「…現場には…牛がたくさんいて、元は人間だった、と思う…」

「……じゃあ……」

「…まだ…角だけだけど……そのうち全身が牛になっちまうかもしれねー」

だんだん声が小さくなっていく土方に、銀時はようやくすべての事情を察した。

やっぱり、誰にも言えなくて、引きこもるしかなくて、一人で恐怖心を抱えていたのだ。

ようやく誰かに話すことができたけれど、銀時の顔を見ることもできずに土方は体を小さく震わせている。


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