原作設定(補完)

□その42
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副長室の前は異様な雰囲気になっていた。

廊下には土方のために運ばれただろう手付かずの今日の昼食の他に、山ほどのマヨネーズとタバコ、一番新しいマガジンが置かれている。

引きこもりあそばした神様への供物のようだった。

このまま引きこもっていたら部屋の前で儀式でも行いかねない。

銀時はやれやれという顔で部屋の前に立つと、襖をボスボスと叩いて声をかける。

「多串くーん、銀さんですよぉ。入っていーい?」

近藤たちができない代わりに無理やりにでも突入するつもりなのだが、一応礼儀は通してみた。

部屋の中の土方は、銀時がいることを驚きながらも即座に返答してくる。

「だ、ダメだ!!!」

やっぱり嫌らしい。

「でもぉ、電話を拒否られてる理由を是が非でも聞かせていただきたいんですけどねぇ」

「り、理由なんか決まってるだろ!」

「その”決まってる”っていう理由を面と向かって言って欲しいわけ。だから入りますよー」

わざとふざけた軽い口調で話すのは、土方を怒らせるため。

冷静で落ち着いているときの土方は何を考えているのか分からないが、怒っていると本音が出やすいからだ。

狙い通りにイラついてくれたらしく、土方は近藤に使った手を銀時にも使ってきた。

「だ、ダメだって言ってんだろーが!! 入ってきたら……き、嫌いになるぞ!!」

そう言えば銀時が素直に引き下がってくれるだろう、と思うぐらいには銀時の気持ちを理解してくれているらしい。

普段なら嫌われたくないので引き下がったと思う。

だが近藤たちに説得されても、銀時からの電話を着信拒否してでも会いたくない理由を確かめないわけにはいかなかった。

絶対に、すごくおおごとな理由があって、それを一人で必死で隠しているのだから。

「……いいよ、それでも」

「!!! も、もう二度と会わないぞ!!?」

「んなことより、多串くんが心配なんですぅぅ。だから入るよ」

そう言って銀時は襖に手をかける。

部屋の構造上、中からつっかえ棒ができないし、特にバリケード的な物も置かれていなかったので襖は簡単に開いた。

きっと庭側の障子にも何も細工してないだろうから入ろうと思えば入れるのに、土方に嫌われたくなくて素直に言うことを聞いている近藤たちが可愛くて情けなく思える。

「は、入るなって、い、言っただろうがぁぁ」

部屋の壁際まで後退し、情けない声でそう言った土方に銀時は内心ではほっと息をついていた。

布団を頭からかぶって引きこもりスタイルになっているが、怒っていた声も普通だったし、食事もマヨも取っていないせいで少し痩せてはいるようだが見た目も変わりない。

強引に入って本気で怒られるかと思ったが、”布団から出ないぞ”という弱気ポーズで布団の合わせをぎゅっと握りしめている。

銀時が近づくと土方がズリズリと布団ごと逃げようとするので、離れたところに腰を下ろすと優しく優ーしく声をかけた。

「なんで部屋から出てこないの?」

「……て、てめーには関係な……」

「あるでしょー。着信拒否なんかするから飛んで来ちゃったじゃん」

「………」

「何もないわけがないんだし、もう逃げられないんだから言うしかなくね?」

本気で近藤たちを、銀時を、拒絶しようと思うのならここから逃げ出していたはずだ。

何も言わずに姿をくらまして一人でなんとかしようとするはずだ。

そうしようしなかったのは、本当は聞いて欲しいし、手を貸して助けて欲しいから。

そう判断した銀時が”話を聞くまでてこでも動かない”という顔をしているので、土方は何度も何度も何度もためらったあとに口を開いた。


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