原作設定(補完)

□その42
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#416

作成:2018/11/15




かぶき町でもちょっと高級な飲み屋から、上機嫌の若者たちがゾロゾロと出て聞た。

「うぃー、飲んだ飲んだ」

「じゃあ、二次会行く人ぉ」

その辺の若者と見た目も言うことも同じだったが、普段の彼らは背負っているモノが違う。

彼らの後から出てきた近藤が、やっぱり上機嫌で釘を刺す。

「お前らぁ、ハメを外し過ぎるなよ。市民の方々に迷惑かけるんじゃないぞ」

飲んでいるのに近藤がまともなことを言うのは珍しく、隊士たちはきょとんとしたあとで笑った。

「だはははは、なんスか局長ぉぉぉ! 一番ハメを外すのは局長じゃないっスか!」

「早く次に行きましょうよ! やっぱり”すまいる“がいいですか!」

「今日は俺は行かないんだよ。もし“すまいる”に行くならお妙さんにくれぐれもよろしく言って……」

「えぇぇぇぇ!! なんでですか!」

「局長が居ないと誰が支払……面白くないじゃないですか!!」

「だって……ほら……」

いつもならノリノリで隊士たちの二次会に付き合う近藤だったが、今日はそうできない理由があった。

隊士たちは、近藤の片腕に抱えられてぐったりしている人物を見る。

視線に気付いたのか、

「んあ? なんらぁ、お前らぁ、黙って見てないれ酌しろ、酌ぅぅぅ」

真っ赤な顔ととろんとした目でそう言ったのは、土方だった。

それはとてもとてもとーーーっても珍しいことで、隊士たちもすぐに納得する。

いつもなら酔っぱらった近藤を介抱し、ハメを外しそうな連中に注意するのは土方の役目なのだが、土方がこうでは近藤がしっかりするしかない。

「俺はトシを連れて屯所に帰るから、お前らはゆっくりしてこい」

「ういーっす」

隊士たちが素直に次の場所へと移動しはじめると、それを見た土方が騒ぎ出す。

「お前らぁどこに行くんだ! 俺も一緒に行ってやるぞぉ!」

「トシ! お前は今日はもう休んだほうが良いって!」

「……らって近藤さん……俺も、み、みんなと仲良くしてぇんら……」

「うんうん。分かってる。だけど今日は俺と一緒に帰ろうな?」

「……帰る……ん……」

近藤に説得されて大人しくなってくれたので、近藤はタクシーを捕まえると乗り込んだ。

出会ったころよりだいぶ逞しくなったけれど、ひさしぶりに抱えた土方の体は思っていたより華奢で、まだまだだな、と近藤から笑みがこぼれる。

「お客さん、どちらまで?」

タクシーの運転手に聞かれた答えようとした近藤に、土方が酔っ払いの口調のまま割って入ってきた。

「あ、真選……」

「よろじゅや!」

「え? トシ?」

「よろじゅやに行く!」

「よ、万事屋? 行くのか?」

「行く!」

断言するので近藤はしかたなくタクシーに万事屋まで行くように頼んだ。

社内で近藤は考える。

なぜ土方が万事屋に行きたがるのか、理由が分からなかった。

二人は顔を合わせれば喧嘩ばかりだし、仕事以外で万事屋に行ったという話も聞いたことがない。

酔って機嫌が良さそうなのに、もしかして何か腹が立つことを思い出して喧嘩しに行くのだろうか。

こんなに酔っぱらっている土方は初めて見るので、何をしでかすのか想像できない。

ので近藤は大乱闘にならないように一緒に行ってやらないと、と考えた。

同じかぶき町内なのでたいした距離ではなかったが、乗り込んでしまったので仕方ない。

すぐに到着して近藤が金を払っている間に、土方が先に出てふらふらした足取りで2階の万事屋へ歩き出した。

釣銭を貰っていて出遅れた近藤が追いついたとき、土方はもう万事屋の扉の前に立って、玄関の呼び鈴を連射しているところだった。

ピンポン!ピンポン!ピンポン!と鳴り響く呼び鈴に、近藤のほうが慌ててしまう。

「ちょっ、トシ、夜中になんだから迷惑……」

小声で静止しようとする前に、案の定、部屋の奥から怒られてしまった。

「うるせぇぇぇぇぇぇ!! 誰ですか、呼び鈴で16連射してんのは! 高橋名人ですかコノヤロォォォ!」

そう怒鳴りながら玄関の扉を乱暴に開けたのは銀時で、近藤の謝罪の前に土方が動いた。

両手を伸ばして銀時の首にからめると、そのまま体ごとぶつかっていく。

「よろじゅやぁぁぁ、俺だぁぁぁ、あはははは!」

付き合いの長い近藤でも見たことのないぐらいのハイテンションだったので、銀時もさぞや驚くことだろうと思ったが、別な意味で近藤のほうが驚かされた。

「多串くん? 仕事忙しいんじゃ……って、酒臭っ!!!」

抱きついた上ですりすりと顔を寄せて甘える土方に、いたって普通の様子で対応している。

むしろ嬉しそうに見えた。

「仕事は終わりましたぁぁ。だからみんなと飲んできたのれす」

「そっか。お疲れさん。でもこんなに酔っぱらっててよくここまで来れたな」

「近藤さんが送ってくれた」

「……え……」

ゴロゴロと喉を鳴らさんばかりに甘える土方と微笑ましく会話していた銀時の表情が凍りついた。

そーっと視線を家の外に向け、近藤が驚いた顔で立っているのを見つけて明らかに“まずい”という顔をしている。

土方が銀時にべったりと甘えていたり、銀時がそんな土方を優しく支えるように抱き締めていたり、その理由をどう言い訳するか考えているようだ。

近藤も複雑な気持ちだったが、このままでは土方をここに置いていっていいのか、連れて帰ったほうがいいのか判断できそうにない。

なので、銀時の言い訳を聞いていくことにした。


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