原作設定(補完)
□その42
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#413
作成:2018/11/03
「いらっしゃーい、土方くん。おつかれさま」
すっかり夜が更けてから万事屋へやってきた土方を、銀時は満面の笑顔で迎える。
それだけで土方の劣悪な職場ですさんだ心が安らぐようだった。
今日は非番で本当はもっと早く来るはずだったのに、遅れに遅れて3時間。
でも銀時は文句も言わず嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑ってくれる。
思わず抱き付きたくなってしまうが、それは恥ずかしいのでやめた。
「……遅れて悪い」
「忙しいのは分かってるから大丈夫。飯食う? それとも風呂に入る?」
屯所でも身の回りのことは隊士たちがやってくれるのだが、銀時は土方のためだけにいろいろ尽くしてくれるのでここは居心地が良かった。
甘やかされすぎだと思わなくもないのだが、まあ土方は土方なりにいろいろしてやってるのでどっこいどっこいだ。
「いや、いい。どっちも済んでる」
そう答えた土方に、さっきまでにこやかったった銀時の表情が変わる。
「済んでる? 飯はともかく風呂まで? ここでも入れるのに?」
"ああ、考えすぎて嫉妬深いという欠点もあったな"、と土方は思った。
「もしかして他で入ってきて遅刻したんじゃないだろうな。浮気は許しませんよ!」
「バカ、違う。遅刻は仕事だ」
「血の残り香はしねーけど?」
「俺は突入してねーからな。ただどさくさまぎれに総悟が俺を狙ってバズーカ撃ちやがったから、火薬と土ぼこりまみれになっちまったんだよ」
それを確かめるためか、銀時はくんくんと土方の匂いを嗅ぐ。
かすかに火薬の匂いが残っていたのか納得したようだ。
なので土方は、自分ができる精一杯でカワイコぶってやった。
「だから……すぐ……できるぞ」
それで銀時がころっと機嫌が良くなってくれるから。
「そ、そうか。うん、じゃあ……そうしよっか」
嬉しいのと照れくさいのを混ぜたような顔をして、銀時はウキウキと和室に向かう。
その背中を見つめながら『ちょろいもんだ』と土方は肩を竦めた。
薄暗い部屋の、万事屋で一番柔らかいであろう布団の上で何度も唇を重ねる。
"久しぶり"なんて言葉で表現するのが気の毒なほど、付き合ってるはずの2人がこうするのは久しぶりだった。
そのせいか銀時はゆっくり味わうようにキスを繰り返すが、土方もそれを楽しむぐらいの余裕はあった。
だが雰囲気も盛り上がってきたので、銀時が土方の着物から中に手を滑り込ませたとき、
「うぎゃぁぁつ!! バカっ、やめろっ!!」
奇声を上げて土方は銀時を付き飛ばす。
思いのほか怪力が出てしまったらしく、油断していたせいもあって銀時は布団からはみ出てひっくり返った。
何が起こったか分からないという顔をしている。
「……わ、悪い」
「な、なに? するの嫌なの?」
拒絶されたことがショックだった銀時が怒っているような悲しいような顔をするので、土方は躊躇いながら正直に言うことにした。
「違う……手が……」
「手?」
「手が冷たかったんだよ!」
どうにもマヌケな理由だったが、解決するために2人は改めて布団に座り直す。
「手が冷たいぐらいで突き飛ばすぅ?」
「い、嫌なんだよ」
「嫌?」
「……ガ、ガキの頃の総悟が、俺が嫌がるんで何度も何度も氷とか雪とか着物の中に入れやがって……今でも不意打ちで冷たいもんに触られると"うひゃー"ってなっちまうんだよ」
「"うぎゃぁぁ"だっただけどね」
銀時は呆れて肩を竦めるので、土方も言い返した。
「て、てめーの手が寒いのがいけねーんだろーが」
「風呂に入ってぬくぬくにしてあったんだけどね、待たされすぎて冷めちゃったんだなぁ、きっと」
今日はいつもより冷える夜で、暖房のない万事屋では温まる手段がなかった。
慣れている銀時は手が冷たいことぐらい、なんてことなかったせいでもある。
自分のせいだと言われて反省するぐらいの気持は土方にもあった。
「…………貸せ」
そう言って銀時の両掌を掴んで自分の口元に運ぶと、はぁぁぁっと息を吐いた。
温かい息を何度か銀時の手に当てて、それから確かめるように自分の手で擦る。
まだ冷たいと分かると、また息を当てる。
手を温めてくれているその姿は、銀時にとっては可愛いだけだった。
『も、萌え死ぬ』
待たされたり突き飛ばされたりしたけれど、これだから土方と付き合うのは楽しいことだらけなのだ。
手が温まったら思い切り可愛がってやろうと思う銀時だった。
おまけ
「土方くーん、足の指も冷たくなったんだけど」
「……水虫がうつるから嫌だ」
「ちゃんと風呂に入りましたぁ!!! ……じゃなくて、水虫はないから!!!」
おわり
寒い日に思いついた話だというのがバレバレですね。
手を温める土方さん、可愛くない?
銀さんじゃなくても萌えますよね(笑)
この後には銀さんが土方さんを甘やかしたエロがありますが……
ご想像にお任せします。