原作設定(補完)
□その41
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町のネオンは明るいけれど玄関の前は薄暗くて、その前にぼんやりと人影があったからだ。
酔いも一気に醒めて思わず声を上げてしまったが、
「ひいっ………………ひ、土方くん?」
その人影に見覚えがあることに気が付いて恐る恐る声をかけた。
人影はゆっくりと顔を銀時に向けて、キレイだけど不機嫌そうな顔をした。
「……万事屋……」
「何してんですか」
「……てめーに会いに……」
「悪い、下にいたから。何か用……」
聞こうとして自分が厠に行くために戻ってきたことを思い出す。
「や、ちょっと待って。先に厠に行かせて」
鍵もかけていない玄関を開けて中に入ると、銀時は厠に飛び込んだ。
溜まったものを出してすっきりしたのだが、もう部屋に入っていると思っていた土方がまだ玄関に立っていてビクッとする。
「土方くん? 入れば?」
声をかけたが動かないので銀時のほうから近寄って顔を覗き込む。
俯いてむすっとしていた土方は銀時を睨んで言った。
「……なんで……誕生日が今日だって黙ってた」
「……え……それ? 黙ってたのこと怒ってんの?」
「なんで黙ってた」
怒っているのは明白だったが、あっさり吐いてくれたその理由が思いもよらなくて驚く銀時に、土方は冷静にもう一度聞いた。
マジだ、と感じたので銀時は素直に答える。
「……誕生日なんて祝われる歳じゃねーし……俺が別に良いって言ってるんだから必要ない」
「だけど、てめーは祝ってくれただろうが」
「……あれは……誕生日をダシにしたら忙しい土方くんが会ってくれるかと思って……」
自分の誕生日がどうでもいいように、本当は土方の"誕生日"だってどうでも良かった。
だけど会えるきっかけになるならどんな言い訳も用意するし、臭いセリフだって言える気分だったのだ。
素直に答えたのだが土方は気に入ってくれなかったようだ。
「俺にもそのダシ使わせろよ」
「……俺に会いたかったの?」
「てめーが……嬉しそうに俺を祝ってくれて……俺も嬉しかったんだ……だから俺だって祝いたかったのに……」
拗ねるようにそう言った土方に、銀時の胸がきゅんとときめく。
まさか土方にそんなことを言ってもらえるとは思っていなかった。
『まじでか! か、可愛っ!』
今なら可愛く甘えてくれるかもしれない、と銀時はそっと土方に手を伸ばす。
「土方くん」
そして優しく抱き締め……ようとして気付いた。
酒臭い。
さっき近づいたときにも匂ったのだが自分からかと思ったら、どうも土方が臭いようだ。
「…………土方くん、飲んでる?」
「飲んでない」
「……出かける前に何か飲んだ?」
「……総悟がチョコをくれた……苦くて美味かった……」
「何個?」
「……次から次へと出すから……20個ぐらい……」
言いたいことを言って気が済んだのか、緊張が解けたのか、土方は急にふらふらして銀時に寄りかかってきた。
銀時は深く溜め息をつく。
抱き締めた土方からは酒の匂いとチョコの匂いがして、沖田のことだから強い酒の入ったチョコを食べさせたようだ。
酔ったせいでここに来たのかは分からない。
だけど銀時が今日誕生日だと誰かから聞いてモヤモヤしていたのだろう。
寝息を立て始めた土方の体を抱き締めて、
『やっぱり可愛っ…………やっぱり誕生日もなかなか良いもんだな』
そう思う銀時だった。
はぴば、銀さん!
おわり
という2人の話。