原作設定(補完)
□その41
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#410
作成:2018/10/26
昼食も取らずに副長室に篭っていた土方のところへ、おやつを両手に持った沖田が訪ねてきた。
その姿は隊服のままだがどう見ても、見回りの途中で駄菓子屋に寄り道してきた大きな子供だった。
土方は、「何買い食いしてんだ」という言葉を飲み込む。
大きな子供でも真選組一番隊隊長だし、それに言っても無駄だからだ。
「飯も食わずに仕事たぁ、何か予定でもあるですかぃ」
忙しいのだから相手にしないとか、面倒くさいなら答えない、という手もあるのだが、沖田相手にそれをすると余計に面倒くさいことになる。
土方は仕事の手を休めず、素っ気なく答えた。
「……そうだ」
「へえ、めずらしいですね。いつ休みを取るんですかぃ」
その問いに答えると、やっぱり面倒なことになるので一応抵抗を試みるが、
「てめーには関係ねー」
「そりゃまあそうですけど……ま、いいや。近藤さんに聞きやす」
そう返されたので諦めた。
どうせ近藤に聞いた後に戻ってきて、また土方を問い詰めるのだから早いほうがいい。
「……来週の水曜だ」
「来週の水曜……10日ですね……あれ? 10日って確か、旦那の誕生日じゃなかったですかぃ」
沖田はしれっと小賢しいことを言うので、土方は小さく眉間にシワを寄せる。
この口調では、どうやら全部承知の上でここに来たらしい。
銀時と付き合っているのがバレてから、何かにつけて土方をからかいに来るので、休みのことをぎりぎりまで隠しておきたかったのに。
まあ沖田がこんな面白いネタを聞き逃したりするわけがないのも分かっていたのだが。
「……そうだ」
「へえ。旦那の誕生日に休みをとって祝ってやろうだなんて、土方さんも案外普通の男なんですねぇ」
沖田に言われるとバカにされているとしか思えないが、言い返すのは止めた。
だが土方が無視するのさえ、沖田はちゃんとお見通しだったようだ。
「じゃあ、旦那が欲しがってた例のあれをプレゼントするんだ」
そんなことを言われ、土方は初めて手を止め顔を向ける。
“銀時の欲しがっていたもの”
それは土方の知れない情報だった。
誕生日を前にちゃんと本人にリサーチはしたのだが、
「プレゼント? いい、いい。土方くんが会いに来てくれるだけで十分ですぅぅ」
そう言われて、そうなのかと納得してしまったのだ。
ケーキとか酒ぐらいは買っていくつもりだが、本人がいらないと言うのでそのつもりでいた。
のに、沖田は銀時が欲しがっている物を知っている様子だった。
「……欲しい物って……なんだ?」
「土方さん、知らねーんですかぃ?」
「……だから、なんだ」
「まあ、そうですねぇ、土方さんには無理なものだから、旦那も言い出せなかったのかもしれねーや」
思わせ振りな言い方をするところをみると、これも土方が知らないと分かっていてわざわざ教えてくれたらしい。
このやろう、とムカつきながらも、土方は平静を装って再度訊ねる。
「俺には無理って、なんだよ」
「旦那が黙っていることを俺が話すわけにはいかねーや。忘れてくだせぇ」
沖田はそう言って波風だけを立てて部屋を出て行った。
『だったら始めっから何も言うんじゃねぇぇぇ!!!!』
口に出せない怒号が土方を余計にむなしくさせた。
この波風のおかげで仕事が手につかなくなってしまう。
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