原作設定(補完)

□その41
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#407

作成:2018/10/12




日の暮れたかぶき町。

依頼が片付いて小銭を稼いだ銀時は、夕方からちょっと飲んで良い気分で店を出た。

鼻歌を口ずさみながら歩いていると、通り過ぎた路地に人影があったのが見えた。

そのまま行ってしまってもよかったのに、何か気になってついつい戻ってしまい、その人物を見て後悔する。

真選組の土方十四郎が壁に手をついてフラフラと歩いていた。

初めて会った日から、ずーっと顔を合わせれば喧嘩ばかりしているのに、事あるごと手なり口なり出す羽目になって縁が切れない。

今日もソレだ。

面倒なら無視すればいいのに、見てしまったからにはもうそれもできない。

「あれれ、副長さんじゃん。こんなとこで何してんですかぁ」

軽口で近寄ったらこっちを見て睨まれた。

「なんだてめー」

いつものようにご機嫌斜めだが、慣れているのでそのぐらいでは腹も立たない。

なので余計なお世話だと言われるだろうけど口出しする。

「一人? 隊服なのにお仲間さんなしでプラプラしてていいの?」

「…………」

だが土方からは反論なく、眉間にシワを寄せたまま"何かおかしい"という顔をした。

文句を言わないだけでも充分おかしいが、

「……副長さん?」

「……てめー…………誰だ?」

「は?」

「……俺は……誰だ?」

「ちょっ…………冗談でしょ?」

銀時を相手に冗談を言うような男じゃないと分かっていたが、そう聞かずにはいられない状況だ。

だが、誰だから分からないのにいつものように"気に入らない"という顔をするので、らしいなとちょっと笑えた。

しかし、それはともかく、記憶喪失じゃなくても普通じゃない様子の土方をここに放置するわけにもいかない。

「あー……じゃあ、とりあえず屯所に連絡して迎えに来てもらうか」

「……とんしょ?」

「それも覚えてねーの……携帯は? 持ってんだろ」

記憶喪失というのはどこまで覚えているんだろうと疑問だったが、どうやら携帯電話は分かるらしく、土方は隊服を探ってみる。

「…………ない」

「えぇぇ……じゃあ屯所の番号調べ…………連れてったほうが早いか」

銀時があきらかに面倒臭そうな顔をしているのに面倒見てくれることが不思議だったらしい。

土方が困惑したような顔で、

「……なんで親切にしてくれるんだ? 俺の……友達か?」

そんなことを言うので銀時は思わず吹き出してしまう。

「ともっ……んなわけねーから!」

「……じゃあ、なんで」

「あー? ……腐れ縁?」

良く言ってそんなところだろう、と思って言った銀時の言葉に、土方はちょっとだけ寂しそうな顔をした。

記憶喪失だということが不安で、声をかけてくれた銀時に何かを期待したのかもしれない。

それは分かったがそんな期待をされても困るので、銀時はさっさと土方を屯所に届けてしまうことにした。

黙って大人しく着いてくる土方が気持ち悪い、なんて思いながら屯所へ着くと、門番に預けて帰ろうとしたのに誰もいない。

記憶のない土方に勝手に中に入って誰かに事情を説明しろ、なんて無理な話だ。

銀時は渋々中まで入って行った。

だが歩けど歩けど隊士の一人にも会わず、

「なんで誰もいねーんですか…………もしかして全員参加の運動会か何か? 警察も暇だな」

つまらないことを銀時はぼやくが、そんなふざけた行事も真選組ならやりかねないな、と思う。

かまわず奥まで進んでみると、ようやく人の話し声が聞えてきた。

どうやら大部屋に隊士たちが集まって何やら話し合っているようで、銀時はようやく開放されると思いながら襖を開けた。

「ゴリさーん、落し物届けに来たんですけどぉ」

突然屯所内に現れた銀時に近藤は驚くが、

「万事屋? 落し物って…………トシ!!?」

銀時の後ろに立っている土方を見てもっと驚いたようだ。

その声に他の隊士たちも一斉に土方を見て、

「副長っ!!! 無事だったんですね!!」

「良かった! 心配したんですよっ!!」

喜んで駆け寄ろうとしたら、どうやら記憶喪失の土方を怯えさせてしまったらしい。

土方は銀時の背後にさっと隠れてしまった。

銀時と土方が犬猿の仲なのを知っている近藤たちは、有り得ない土方の姿に更に驚いていた。


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