原作設定(補完)
□その41
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#402
作成:2018/09/27
かぶき町の道を土方が乱暴な足取りで歩いていた。
探しているのは例によって例のごとくな沖田で、もちろん例によって例のごとく見回りの途中で逃げられたのだ。
遠目に見えた沖田は団子屋の脇道から裏へ逃げていった。
ずっと屯所に缶詰していた土方だったが、近藤に「気晴らししてこい」と言われて渋々出てきたのに。
沖田と一緒じゃ気晴らしにならないと分かっているのに同行してきたのは、居ないところで問題を起されるよりは楽だと思ったからだ。
逃げられるのなんて慣れているが、できれば早く帰りたかったのでイライラしていた。
仕事のせいでずっと酒を飲みにも行っていない。
見回りを終えて残りの仕事を片付けたら夜には行けるかもしれない、と考えていた。
なので沖田を見つけてさっさと連れて帰りたい。
路地を奥へ進むとどこからか声が聞えてきた。
若い女で、口調や声から3人ほどがキャッキャと話している。
そんなのはなんでもないことなのに、土方が足を止めたのには理由があった。
「え〜〜、じゃあ、ほんとに銀さんと付き合ってるの?」
「そうよ、彼って私にメロメロだからもう我慢できないんですって!」
「万事屋さん、のほほんとした顔をしているのに意外と熱烈なのねー」
彼女たちの話題が間違いなく銀時のことだと分かって、土方の足は進まなくなる。
"あること"を覗けば、銀時がこの声の主と付き合っているという話題なだけで、土方が気にするようなことじゃない。
だが、土方には素通りできない"あること"があった。
「銀さん、カッコ良いけどもうちょっと稼ぎがあるといいのに」
「あら、私のために頑張って儲けてくれるって言ってたわ。それにいざとなれば私が働くからいいのよ」
「もう、そんなに万事屋さんが好きなの? 妬けちゃうわねー」
「ふふふ、幸せのおすそ分けよ。早く電話くれないかなー、すぐ会いに行くのにぃ」
それ以上は聞いていられなくて、土方はなんとか足を動かして表通りまで出てきた。
頭が痛い、喉が渇く、胸がムカムカする。
ショックで悲しかったはずが、歩いているうちに段々怒りに変わってきた。
『あの腐れ天パーの金なし仕事なしの甲斐性なしがぁぁぁぁ!!!! 俺が仕事が忙しくてちょっと…………だいぶ放ったらかしにしたからって他に相手を見つけるなんて!!!!』
仕事が忙しくても頑張れたのは、近藤さんや沖田が仕事しなくてもぐっと我慢してきたのは、休暇に銀時に会えるのを楽しみだったからだ。
なのにそれを裏切るような話を相手の女から聞かれてしまうとは。
あいにく泣き寝入りしたり黙って別れ話をしてやるような可愛い人間ではない。
そう自覚している土方は、すっかり沖田のことを忘れて怒りのまま万事屋に向かうのだった。
怒りのままに万事屋に突入した土方は、ちゃんと他に誰の気配がないことを確認した上で、ソファでだらけている銀時に詰め寄った。
突然のことで驚いていた銀時も、相手が土方だと認識してからぱっと嬉しそうな顔をする。
「多串くんっ、どうしたんですか急に」
土方が怒っているのは見たら分かるのに、嬉しいのを抑えきれないという顔を"わざと"するのだ。
分かっているのにこの緩んだ顔を見ると許してしまいそうになるのを、土方はぐっと我慢する。
それからさっきの話を問い詰めた。
「いつからだ」
「え?」
「いつから女と付き合ってんだ」
「……女? 付き合ってる?」
「とぼけるな。てめーと付き合ってるって女が幸せそうに言ってたぞ」
「ちょ、待った」
「俺に飽きたならそう言えばいいだろう! 二股かけるたぁ、いい度胸だな」
「多串くーん、何か誤解……」
土方が真剣に怒っているのにへらっと笑って誤魔化そうとする銀時に、土方は頭に血が上った。
「誤魔化す気ならもういい! てめーとはわか……」
かっとなって言いそうになった言葉を飲み込む。
銀時と不毛な恋愛を続ける気ならいっそ別れてしまえばいいのだ。
だけど"別れる"と言おうとしたら、胸が押しつぶされそうになった。
別れてしまったもうこうして会えなくなる。
ふざけた顔も、むかつく顔も、優しい顔も見れなくなる。
銀時に裏切られていたことよりもそっちのほうがツライ、そう思ったら最期まで言えなくなってしまった。
怒って意味不明なことを喚いていた土方が、今度はいろんな感情を抑えたような顔をする。
銀時のドS心をくすぐる情けなくて可愛い顔をしているが、何か言う前に騒がしいのが帰ってきた。
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