原作設定(補完)
□その40
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非番の日に銀時と会ったとき、何度か急ぎの仕事を持っていったことがあって、それを眺めていたせいだ。
「休みの日はちゃんと休みなさい!」というのが近藤のモットーなので、それを白状するわけにはいかなかった。
とにかく、何かと役に立ってくれたのでそのまま屯所で働いている、らしい。
だが土方が帰ってきたのだからお役御免にできると思ったのに、近藤がとんでもないことを言い出した。
「どうだ、万事屋。このまま真選組に入らないか?」
「はあ?」
「な、何言ってんだ、近藤さん」
「だって万事屋の腕前なら武力としても申し分ないし、副長としてもけっこうやっていけそうじゃないか。それに給料もいいぞぉ?」
「あー、うーん、それはねぇ、確かに……」
近藤が銀時の一番の弱点=金欠を攻めて唆そうとするし、銀時は単純にも唆されようとしている。
銀時が真選組に入れば今までよりは一緒に居られるだろう、なんてことは土方の頭には浮かばなかった。
銀時はきっと悪い面も含めて隊士たちと今まで以上に上手くやっていくだろう。
それを考えたら胸がぎゅーっと締め付けられた。
「トシ? どうした? もしかして……」
「近藤さん、俺、ちょっと休んでいいか?」
土方の様子がおかしいのを心配する近藤にそう言うと心配してくれて、
「あ、ああ、もちろんだ。ゆっくりしてくれ」
そう了承を得たところでやっぱり心配している銀時の腕を掴んだ。
「多串くん、大丈……」
「ちょっと来い」
そしてぐいぐいと副長室まで引っ張って行く。
銀時を部屋に押し込むように突っ込んで後ろ手に襖を閉めてから、
「脱げ」
「……え?」
「さっさとこの隊服を脱げ!」
土方は銀時に詰め寄り襟首を掴んでそう言った。
怒っているが顔がちょっと赤らんでいて、銀時は嬉しそうに言う。
「いやん、多串くん、"ただいま"の一発? えっちぃ」
「違う! とっとといつものだせー服に着替えろ!」
なんだそういう意味か、と銀時はがっかりした顔で肩を竦めた。
土方に内緒で副長に仮入隊したのだから怒られるのは覚悟していたし、近藤と話している間も至極不満そうだった。
さっきはああ言ったものの、本当に入隊する気なんてない。
しかしちょっとぐらい嬉しがってくれるんじゃないか、と期待もしていたのだ。
だが今すぐに追い出したいほど嫌がっているのなら仕方ない。
仕方ないけれど、ちょっとぐらい拗ねてみてもいいと思う。
「そんなに怒らなくてもよくね? 俺、副長代理、けっこう頑張ったのになぁ」
愚痴る銀時に、土方は銀時の隊服を強く握り締めたまま呟くように言った。
「…………らしくねーだろ」
「あ?」
「らしくねーだろ、てめーが規律まみれの真選組で、隊士たちと仲良くやってるなんて似合わないだろうが」
「……俺を協調性のない寂しい人間みたいに言うのやめてくれますぅ」
自覚はしているが一応文句は言ってみた。
確かに真選組の仕事は我慢や気をつかうことが多かったけれど、それも土方のためを思えばのこと。
なのにそんな風に言われると心外だ。
「ちぇっ、多串くんに喜んでもらおうと思ったのに」
不満そうな銀時を見て土方は眉間にシワを寄せた後、隊服を掴んだ手を手前に引き寄せる。
当然、その隊服を着ている銀時も引っ張られてついてくるわけで、土方はその体にぴたりと寄り添った。
甘えているようにも見えるその行動に、銀時のほうがうろたえてしまう。
「お、お、多串くん?」
「……俺を喜ばせてーなら、俺にだけでいいだろーが」
「……え……」
顔を上げた土方の頬はますます赤く染まり、潤んだ目で銀時をじっと見つめた。
「てめーは……俺の側で……俺にだけ優しくしてりゃいいんだ……」
「……お、多串くん……」
もしかしたら、銀時が自分だけじゃなく隊士たちにも愛想良くしているのが気に入らなかった、と言っているのだろうか。
そうなら寄り添ってくれている土方にムラムラしてやらないのも失礼なわけで。
銀時の腕が土方を抱きしめようとする前に、土方の方から寄りかかってきてくれた。
そんな可愛いことをされて一気にテンションの上がる銀時だったが、そう簡単にラブコメ漫画みたいな展開にはならないようだ。
銀時に寄りかかった土方は、銀時の腕に支えられる前にずるずるっと足元に崩れ落ちた。
「多串くん!?」
慌てて抱えあげると、土方の顔はこれ以上ないぐらいに真っ赤で、息苦しそうで、もう意識もない。
「きゅ、救急車ぁぁぁぁぁぁ!!!」
動揺して原始的な呼び方をしてしまう銀時だった。
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