原作設定(補完)
□その40
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本来、坂田銀時という男は、真選組の中では"得体のしれない厄介者"扱いだ。
さらに土方と付き合っていることがバレてからは、"副長をたぶらかした"が追加され毛嫌いされていたはずだった。
今、銀時と親しく話していた隊士だって、土方の見てないところで散々文句を言っていたのに。
"悪いヤツじゃない。親しくなってみれば分かる"と土方が思っていたとおり、一緒にいて分かってくれたらしい。
嬉しいはずなのに胸がもやもやする。
土方はぷいっと視線を反らし、そのまま本来の目的地であるはずの局長室へ向かって歩き出した。
「あれ、多串くんっ、ちょっと待ってっ」
銀時が慌てて追いかけてくるが、土方は足も止めないし返事もしない。
何度も声をかけてきた銀時も、諦めて黙って後を着いてきた。
局長室に着くと、
「近藤さん、入るぞ」
と言うと同時に襖を開けた土方に、中に居た近藤と山崎が一瞬驚いてから嬉しそうに笑った。
「トシ、おかえり」
「副長、おかえりなさいっ」
いつもなら労いの言葉を受け取って疲れを吹っ飛ばすことができるのだが、今回はそれどころじゃない。
後から着いてきている銀時を振り返らず指差した。
「どういうことだ、これは」
予想通り不機嫌な土方に近藤は苦笑い。
「あー、話せば長くなるんだがな」
「話してくれ」
「でも疲れてるだろ? 顔色悪いぞ。先に休んだほうが……」
「眠れるか。先に聞く」
話すまで休んでくれなそうなので、近藤は説明してくれた。
警察組織の中でも真選組が特別扱いされているのを不満に思う者は多い。
なら変わりにテロ組織を相手に命をかけてみろ、と言われたら何も言えなくなるくせに、何かを喧嘩を売られたりもする。
土方が出張に行っているある日、テロ現場となった場所を管轄する警察と揉め、売り言葉に買い言葉の応酬、一触即発で大乱闘になるところを抑え、平和的に剣道の試合を行うことで収めた。
真選組はそれなりの手練を集めているし実戦ではどの組織も敵わないだろうが、剣道の試合となるとそうもいかない。
相手の警察は剣道であれば、と自信があるからこそ試合を申し込んできたのだろう。
しかも今回真選組は土方を欠いていて厳しい状況だった。
「そうムキにならなくても、負けてもいいじゃないか」
呑気にそう言った近藤は、一部の隊士たちから猛反発を食らう。
「いやでさぁ。土方さんが居ない試合で負けたら、あとで何を言われるか」
「そうです! あんなやつ等にデカイ顔されたくありません!」
土方に「俺がいねーとダメか」とドヤ顔されるのが嫌な沖田と、どうやら現場で揉めた隊士たちのようだ。
負けるのは嫌だが、だからといって急に強くなるわけでもない。
「…………だから、こいつの手を借りたのか……」
話を聞いた土方は呆れた顔でそう言ったが、気持ちは分からなくもない。
自分だって、近藤をバカにされ、沖田が居なかったら同じことをしたような気もする。
「そういうわけだ」
「……だけど、何も副長扱いにしなくてもよかっただろ」
それが一番気に入らなかったのか、土方がそう言うと近藤は苦笑いで銀時をチラリと見る。
「それは……」
「多串くんの代わりなんだから同じ待遇を要求しますぅぅぅ。それに俺に平の服は似合わないでしょー」
と言い張って隊長服をもぎ取ったようだ。
まあ銀時らしいと言えば銀時らしいし、頼みごとをした以上逆らえなかったのだろう。
だったらもう一つ気になることがある。
「……それと、なんでまだ仕事させてんだ」
どうせ松平に話を通して書類を偽装し銀時を入隊させたのだろうから、試合だけで良かったはずだ。
だがそれにもちゃんと理由があった。
「それはな、トシがいない間にどうしても必要な書類がいくつか溜まってしまってな、俺が代わりにやっていたら万事屋が手伝ってくれたんだよ」
「……あ?」
「だははははっ、ザキも居なかったし俺には難しくてなー。そしたら万事屋が割りと詳しくて……」
「一応社長だからねー。書類整理だってお手の物」
偉そうに踏ん反り返る銀時だったが、土方は自信満々の理由を知っていた。
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