原作設定(補完)
□その40
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#400
作成:2018/09/15
「副長、着きましたよ」
声をかけられて土方は重い瞼を開ける。
ここは真選組のパトカーの中で、声をかけて心配そうに見ているが隊士で、場所は屯所の前だ。
数名の隊士を連れての長期出張からようやく戻ってきたのだと、土方は小さく息をつく。
地方での隊士募集や、挨拶周りや、情報の収集も真選組の大事な仕事だった。
しかし今回はかなりハードな過密スケジュールだったせいで土方の疲労は目に見えるほどで、帰りの電車に乗ってから今起されるまでほとんど記憶がない。
「大丈夫ですか?」
「……おう」
車から降りて屯所内に向かって歩き出す土方の足取りはおぼつかなく、
「早めに休んでくださいねー」
隊士にそう声をかけられるほどだ。
普段は鬼の副長と恐れられることが多い土方だったが、仕事に同行した隊士は、土方がとても真面目で自分にも厳しいことを知る。
そのため隊士が一気に好感度を上げたりするのだが、土方がそれに気付くことはない。
隊士の言葉に返事をせず、土方はだるい体をなんとか動かして歩いた。
確かに疲労困憊必至のスケジュールだったが、それだけじゃないのは自分が一番分かっている。
近藤に報告したら少し部屋で休ませてもらおう、と考えながら、土方は出退勤を掲示している名札を赤から黒にひっくり返そうと手を伸ばして、止めた。
"副長"の下に"土方十四郎"の札があり、その隣に"坂田銀時"と書かれた札が掛かっていたからだ。
黒なので出勤してるんだな、と思ってしまったが問題はそこじゃない。
「な……なんでこいつが……」
辺りを見回すが姿は見えず、闇雲に探すより事情を知っているヤツに聞いたほうが早いと気付く。
"許可"を出した男のところへ行こうとしていたのだから。
だが早歩きで局長室へ向かっている途中で、あっさりと銀時は姿を現した。
「あれぇ、おーぐしくーん、おかえりー」
ちゃんと隊長服を着て悪びれもせずのんきな声でそう言った銀時に、土方は怒りを通り越してあきれ返る。
今日帰って来ることも知っているし、名札を見て驚き怒っていることも知っているはずだ。
分かっていて敢えてのんきに振舞うのが銀時という男なのだから。
きっとこれから土方が何を言いたいのかも分かっているはずなので期
待に答えてやろうとしたが、
「……てめー……」
「あ、ちょっと待ってて。こっち先に済ますから」
そう言って遮られてしまう。
銀時の横には何か書類を持った隊士がいて、
「副長、お帰りなさい。すいません、急ぎなんで……」
「こっちとこっちは2番隊に頼んで、こっちは5番隊……あ、5番隊は今日は非番か……じゃあ、2番隊に回しといて」
「2番隊は夕方から非番ですよ。それまでに終わるかなぁ」
「夕飯に団子付けるから頑張って、って言っといて」
「坂田副長じゃないんだから団子じゃ納得しませんよ」
「うわ、贅沢! その団子を親父がどんだけ丹精を込めているか……」
「はいはいはい、言っときます」
なんて、和やかに話しながら指示を出す様子を、土方はもやもやとした気分で見つめた。
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