原作設定(補完)
□その40
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#392
作成:2018/07/25
屯所の食堂が終わったころ、一仕事終えた土方は夕食を取るために外出した。
近藤は居なかったし、部下を誘ってもお互い気を使うし、一人でいいかと店を探す。
ぷらぷらしていたらおでん屋の屋台を見つけた。
もう7月になって毎日暑いが今夜はちょっと肌寒いぐらいだし、久しぶりにおでんと日本酒でもちょっと飲むか、という気分になる。
のれんの隙間から見える空席に座ろうとしたら、
「親父、いいか?」
「へい、らっしゃい」
「あれ、副長さんじゃない」
声をかけられそちらを見ると、長谷川がすっかり出来上がった様子で土方を見上げていた。
土方は眉間にシワを寄せる。
長谷川が気に入らないわけではなく、長谷川の向こう側でテーブルにつっぷしている銀色の髪が見えたからだ。
顔を合わせれば喧嘩ばかりしている銀時と、酒の席で一緒になって揉めないわけがない。
そのまま帰ろうとしたら長谷川に引き止められた。
「大丈夫大丈夫、銀さん、すっかり酔いつぶれちゃったから」
二人の犬猿の仲は周知の事実で、長谷川も笑いながらそう言った。
確かに長谷川の声を聞いても銀時は顔を上げなかったし、すっかりおでんの気分だったので場所を変えるのも癪に障る。
まあいいかと空席に座り適当に酒とおでんを頼んで食べ始めたら、銀時が酔いつぶれてつまらないのか長谷川が話しかけてきた。
「それにさぁ、銀さん、ちょっと落ち込んでるんだよねぇ」
唐突ではあるが、意外なことを聞かされて土方もつい返事をしてしまう。
「……はっ、コイツが? どうせ金がないとか、そんなことだろ」
「まあそれもあるんだけどね。今日はねぇ、甘酸っぱい話なんだよねぇ」
意味が分からないという顔の土方に、長谷川はニヤニヤしている。
「どうやらね、好きな子がいるみたいなんだよ」
「…………は?」
「でも上手くアタックできてないみたいでさぁ。落ち込んで深酒とか、銀さんも可愛いとこあるよねぇ」
普段は小憎たらしいことばかり言われているせいか、今日のらしくない銀時が微笑ましく思えたようだ。
それにはいまいち同感できない土方は、ぐいっと酒を飲み干しておかわりを頼む。
銀時に可愛いところがあろうと、好きな女がいようと関係がないことだ。
だが長谷川は聞いてもいないのに話を続けた。
「まあでも上手くできなくても無理もないかなぁ。かなりの上玉らしいんだよね」
「……へえ」
「美人でモテモテだし、仕事もできて部下もいっぱいいるし、でもちょっと抜けてる可愛いところもあって、話をするだけでも楽しいんだって。でも自分には高嶺の花だから気持ちなんて打ち明けられない、って言うんだよ」
土方は小さくあきれた溜め息をつく。
確かに剣の腕は立つが、普段の生活ぶりから考えたらそんな女に惚れるほうが悪い。
そう思うと同時に、自分とは会えば喧嘩ばかりするくせに、会話をするだけで楽しいと思えるような相手がいるんだな、と妙にイラついたりもした。
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