学園設定(補完)

□同級生−その4
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そんな男が、初コンタクトでとんでもないことを言い出したのだから、

「……あ?……」

と聞き返してしまっても無理はないだろう。

土方の態度は素っ気なかったが、坂田は全然堪えてないように改めて言い直してくる。

「だから、俺とお付き合いしませんか」

「……誰が」

「……俺の目の前には土方くんしかいなくね?」

「……まじでか……」

「土方くんがさ、女どもの告白全部断ってるって聞いて、もしかして女嫌いで男ならイケるんじゃねーかと意を決しての告白だったんだけどなぁ」

いきなりのカミングアウトだったが、どうも坂田が言うとふざけているように聞える。

土方が眉間にシワを寄せているのを見て、"そう"思っているのを気付いた坂田が言った。

「マジです。ふざけて男に告白なんかしねーから」

それが本当なら土方が言うことは一つ。

「……悪い。今は誰とも付き合う気、ねーから」

お決まりの言葉で断ると、今での女生徒は悲しんだり、スッキリしたり、怒ったりするものだがったが、坂田はやっぱり一味違っていた。

「いつならその気になる?」

「……あ?……」

「今はその気じゃなくても、いつかその気になるかもしれなくね? それまで待つよ?」

ええぇぇぇ!?、と土方は動揺する。

"今は"なんて常套句で本心じゃないのに、坂田はワクワクした顔で土方の返事を待っているのだ。

「いや……それは……」

「あ、待つのはいいんだけどさ、その間に他の女に取られちゃうのはイヤだしなぁ……そうだ! 土方くん、俺のことよく知らないよね? 待ってる間に俺のことを知ってもらうために、休憩時間のたびに会いに来るから!」

「え?」

「そしたら他の女の入る隙間もなくて安心じゃね? 俺、すげ名案!」

「……おい……」

「あ、もう帰る? じゃあ早速、今日は一緒に帰りましょー。下駄箱で待ってるから!」

「ちょっ……」

言いたいことを言って勝手に約束し、坂田はぴゅーっと自分のクラスに帰って行った。

呆然と見送ってしまったが、放課後なのだから土方も帰らないわけにはいかない。

近藤たちも帰ってしまった後で、こっそり下駄箱を覗いたらもう坂田が待っていて、土方は仕方なく一緒に帰る羽目になった。

別れ道までずーっと坂田の個人情報を聞かされて、土方は複雑な気持ちになる。

正直坂田に興味があるかないかと聞かれたら、ない。

だけど聞かされた話には、自分との共通点とか興味深いことがいろいろあった。

未成年なのに家族が居なくて一人暮らしだ、ということ。

趣味が料理でなかなかの腕前だ、ということ。

見た目の派手さと口の軽さとは別に、それなりに苦労してるのかもしれない。

男でも女でもいい加減な者は苦手な土方だったが、話してみたおかげで坂田への印象が変わったのは確かだ。

それから、坂田は宣言通りに休憩のたびに土方のところへやって来た。

教室でいつも一緒にいる近藤や沖田は、他のクラスの坂田が訪ねてきたのを驚いていたようだったが、坂田が屈託ないのですぐに仲良くなってしまった。

告白したことされたことは言わないでくれているので、急に出来た友人と認識されたらしい。

おかげで坂田が毎回来てもおかしくなくなったし、隙がなくなったせいか女生徒からの告白ラッシュも治まった。

ただ二人きりになると、

「もうそろそろ俺のこと好きになった?」

と期待した顔で言われるので、

「……ならねー」

と困ったような呆れたような感じに答えるしかない。

だが坂田は全然ガッカリしてない様子で、

「ちぇー、まだダメかぁ」

そうぼやいてから、また楽しそうに話を始める。

坂田が期待しているようなことになるはずがない、なれないことが、少しだけ申し訳なく思う土方だった。


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