学園設定(補完)

□同級生−その4
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#92

作成:2019/02/21




「2月13日から15日まで、剣道の大会で居ない?」

「うん」

復唱する銀時に、十四郎は昼食の弁当を急いで、でもしっかりと噛んで食べながら頷く。

急いでいるのは昼休みの残りは剣道部で軽い稽古をしたいからだし、よく噛んで食べるのは銀時に以前「ちゃんと噛んだほうが消化に良い」と言われたからだ。

素直で可愛い十四郎に、

「だって14日は俺たちが付き合ってから始めてのバレンタインデーなんですけどっ」

と言いたくなるのを銀時はぐっと我慢した。

十四郎がどれだけ部活が大好きで頑張っているかを知っているからだ。

そのせいで、付き合い始めても放課後や休日にデートもできないし、昼練習に行く前のわずかなこの時間に一緒にご飯を食べるしかできないほど。

それどころじゃなくても仕方ないのだ。

バレンタインにチョコなんて菓子業界の汚い陰謀のようなものだし、そもそも十四郎がこの時期にチョコを買えるかどうかもあやしい。

好きな子からチョコを貰う、ということに憧れていたけれどバレンタインデーは来年もある。

「……そっか。大事な試合なんだろ、頑張れよ」

「うん」

銀時に応援されたのが嬉しいのか、十四郎は頷いて笑う。

こんな顔が見れるなら我が儘なんて言うまい、と思えた。

チョコは我慢する代わりに十四郎の勇姿を見たいものだが、

「じゃ、じゃあ、俺は学校サボって応援に行っちゃおうかなー」

「ダメに決まってんだろ、サボんな」

笑顔のままぴしゃりと断られた。

彼氏の愛情たっぷりの応援を断るとは、さすが真面目で堅物のA型だ。

そういう性格だと分かっていて好きになり、そういう性格だと分かっていて告白したのだから、やっぱり仕方ないのだ。

「……はぁい」

そう返事をしてしょんぼりと昼飯を食べ始める銀時に、十四郎は何か言おうとして、止めた。







2月14日。

十四郎が居なくて寂しい思いと、チョコが飛び交っているけれど"義理中の義理"チョコしか貰えてないムカつく思いを抱えて、銀時は教室でぼうっとしていた。

「なんだ、銀時。せっかくのバレンタインデーだというのにつまらなそうだな」

「ヅラ、理由は机の上を見れば一目瞭然だろうが」

「義理でもチョコはチョコじゃ。ありがたく素直によろこばんかぁ」

悪友たちが集まってきて騒がしくなっても上の空の銀時。

桂と坂本は首を傾げるが、高杉はニヤニヤと見抜いた。

「銀時、おい……」

「ほっといてやれよ。どうせ土方がいなくて落ち込んでるだけなんだろ」

「なんじゃ、そんなことで落ち込んどるがか? 見かけによらず繊細なんじゃのう」

勝手なことを言う悪友たちは無視し続けようと思っていた銀時だが、

「ああ、そう言えば、土方といえば大変なことになってるようだな」

という桂の意味深な言葉に、反射的にぱっと顔を向けてしまう。

ようやく反応した銀時に桂は話してくれた。

「土方がどうしたって?」

「うむ。さきほど職員室で小耳に挟んだんだが、わが高で唯一個人戦で勝ち進んでるそうだ」

「へえ」

「見掛けに寄らず猛者なんじゃのう」

「…………それのどこが大変なんだよ。めでたいだろうが」

「団体戦も勝ち進んでるそうだぞ」

やれやれという顔の桂に、銀時たちも気が付いた。

「うちの学校じゃあ、個人戦と団体戦にそれぞれ選手を分ける余裕はねーだろうな」

「土方は両方に出てるがか? そりゃあ大変そうじゃあ」

十四郎がどれだけ部活が大好きで頑張っているかを知っている。

そのせいで、付き合い始めても放課後や休日にデートもできないし、昼練習に行く前のわずかな時間に一緒にご飯を食べるしかできないし、バレンタインデーにチョコが欲しいと言えないほど。

だから十四郎はきっと頑張っているだろう。

クタクタになってもボロボロになっても最後まで頑張り続けるだろう。

それをこんな離れた場所で待っているなんて、できるわけがなかった。



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